| ■マイブームの時期 ・第一期：1983～2023年 |
2023年10月のこと。もうね、悩みに悩みましたとも。何がって、英国のSnapper Music labelからリリースされたFrankie Valli & The Four Seasons のボックスセット『Working Our Way Back to You: Ultimate Collection』のことをだよ。
2022年6月にリリース発表を知った時から惹かれてはいたんだけれど、なにせコアなファンに向けた44枚のCD + LPという常識外の超弩級ボックスセット。
米国での最低価格は400ドルで、日本の大手の取扱いでは約80,000円になってる。今、1ドルは149円だけど、どこでボッタくっているのか。消費税だけで、7000円以上だもんな。
このボックスにはオリジナルアルバムの全てと、Motown時代を含む未発表トラック、1970年代の未発表ライブ、デモ、アウトテイク、シングルB面等、800以上のトラックが収録されている。
さらにオリジナルの凝ったジャケットを再現した『Genuine Imitation Life Gazette』の LPと、詳細なブックレットが付属する限定2500セットだ。
Frankie Valli & The Four Seasonsは、全盛期のアウトテイクやボツ曲が殆ど残っておらず、それ以降のアウトテイクもあまり公開されていない。だから未発表音源は聴きたい。
で、悩ましいのは未発表音源だけのために、この金額が出せるのかってことなんだよ。こちとら80年代半ばからの後追いファンとはいえ、オリジナルアルバムや既存の公式音源は殆ど持ってるからね。
まだ彼らのCDなんてリリースされてない時代だったから、音源を聴きたければ、中古レコード店を巡ってオリジナルレコードを入手するしかなかった。
そういえば、レコード盤の時代は、まるで儀式のように30センチ四方のアルバムジャケットから指紋がつかないようにレコード盤を取り出し、そっとターンテーブルに載せて、慎重に針を落とすのが普通のことだった。なんでもひと手間の時代だったね。
オレは彼らのレコードを手に入れるために、学陽書房の1986年版 「東京レコードマップ」を片手に、中古レコード店を回った。
マンションの一室にある怪しげなレコード店やら、古びたビルの地下にある鉄格子をくぐって入店するレコード屋など、ヘンな店をあちこち訪れたりしながら少しづつアルバムを集めたね。
当時は茗荷谷に住んでいたから、毎週末になると青山の”Pied Piper House”へと車を走らせた。
このマニアックな店は中古ショップではないけれど、ビーチボーイズとフォーシーズンズ関連のコーナーがあって、海外で処分されたフランキー・ヴァリのソロアルバムなんかが時々、並べられてた。
あと「Rave On」編集者の神谷氏が、横浜市西区平沼で営業していたレコード店”Back To The Rock Record Service”や、麻布警察署の先にあった六本木WAVEの中古レコードのコーナーにも時々、足を運んだ。
現在では配信やYouTubeで音楽を聴くのが普通だけれど、当時はインターネットなんてなかったから、足で探し回るしかなかったんだよね。
オレはそうやって、オリジナルアルバムをほぼ揃えていった。『The 4 Seasons Sing Big Hits by Burt Bacharach… Hal David… Bob Dylan…』、『The Genuine Imitation Life Gazette』の日本盤アルバムを手に入れた時は、嬉しさよりも驚きがあったな。だって日本盤があるなんて思わなかったもの。
彼らの音楽には、そんな風にやっとレコードを見つけた時の喜びがプラスされているから、より思い入れがあるのかもしれない。
そして、ようやくオリジナルレコードがCD化されたら、当然の如く入手してた。
つまりは手元にはレコードとCDの音源があって、さらに2007年の企画盤『Jersey Beat』や、2014年にリリースされたオリジナルアルバム15枚のボックス『Frankie Valli & The Four Seasons: The Classic Albums Box』なんてものにも手をだしてたから、彼らのオリジナル盤は何種類も集まってるわけさ。
Philips時代のレコードアルバムなんて、モノ盤とステレオ盤がリリースされてる。両者は少しだけジャケットが違っていて、モノ盤はジャケットの下部にhi-fi Monoral”の文字があり、ステレオ盤はジャケット上部に”STEREO“と書かれている。
オレはステレオ盤さえ手に入ればよかったんだけど、とにかく彼らのレコードは見つからないわけ。
だから中古レコード屋で、探してたアルバムのモノ盤だけがあったなんて時に、すごく迷うんだよ。モノ盤は興味ないんだけど、ここで手に入れておかないと、今後はステレオ盤もモノ盤もみつからないんじゃないかもってさ。で、モノ盤に手を出して、後日、ステレオ盤を見つけて、また手を出したりするの。
だから今回の『Working Our Way Back to You: Ultimate Collection』に含まれるオリジナル盤には興味がなかったわけ。というか、もう結構という感じだったね。
それに、ネット配信で音楽を聴くのが日常になってるのに、今さらCDという媒体もねぇ。別にコレクションしたいわけじゃなくて、音源が聴ければそれでいいんだもの。だいたい大枚をはたいて手に入れたところで、サブスクで聴けるようになったら無駄すぎる。
今ではビーチボーイズのマニアックなボックスセット『Smile Collectors Box』（2011年）だってサブスクで聴くことができる。『FEEL FLOWS: The Sunflower & Surf’s Up Sessions 1969-1971 (Deluxe)』（2021年）、『Sail On Sailor – 1972 (Deluxe)』（2022年）なんて、リリースと同時にサブスクのメニューに並んでた。YouTubeでも音源がアップされたりするし。
そんなわけで、オレは早々に『Working Our Way Back to You: Ultimate Collection』を購入することは諦めて、サブスクで聴けるようになることに期待をかけた。
でもねぇ。2023年6月にボックスがリリースされて、3ヶ月経ってもサブスクに上がってくる気配がないわけ。
AmazonPrimeではストリーミングができるようになってたけど、クリックしたら『Working Our Way Back to You』（2013年）という同タイトルのショボいベスト盤にリンクされていた。これじゃねーんだよ！
YouTubeには、ボックスからMotown時代の未発表音源を収録した1枚分の音源だけがアップされてる。オレはそれらを聴いて、「まぁいいか」なんて思ってた。
だけど、Vanda誌、Web Vandaの佐野邦彦さんが絶賛してた『フランキー・ヴァリ＆ザ・フォー・シーズンズのすべて』の著者、斎藤 充正さんのブログ記事を読んじゃったわけ。
この記事がさ、なんかもうボックスを聴きたくてしょうがなくなるような内容なんだよ。
佐野邦彦さんが存命だったら、VANDAに書いたんじゃないかと思えるような記事だったね。ずるいよ。こりゃもう購入するしかないかもって思うじゃん。
米バラエティ誌に掲載されたフランキー・ヴァリのインタビュー記事も後押しするしさ。
ここで手に入れなきゃ、二度と聴くことはできないんじゃないかと思えたね。オレは大枚をはたくための自分への言い訳を考えた。言い訳しなきゃ手が出せないもの。
で、これはもうフランキー・ヴァリとボブ・ゴーディオへの香典代わりだと思うことにしたわけ。まぁ、今んとこ2人とも存命だけど、そろそろなんじゃないかな。
なんならオリジナルメンバーだったニック・マッシ（1927/9/19 – 2000/12/24）、トミー・デヴィート(1928/6/19 – 2020/9/21)、ジョー・ロング（1932/9/5 – 2021/4/21）への遅めの香典ってことでもいいし。
そんなわけで、2023年10月にタワーレコードオンラインで、ついにオーダーしちゃったよ。商品価格￥83,090ナリ。
もう、死ぬかと思ったね。だけど、このボックスはまさに彼らの集大成だし、これ以上の音源が出ることはないと思うもの。
ちなみに、このボックスにはフランキー・ヴァリの最新ジャズアルバム『A Touch Of Jazz』は収録されていない。
もしもオマケ的な1枚があるとしたら、彼らの全盛期の勢いを伝える意味で、ボブ・クルーがプロデュースしたフォーシーズンズのインストアルバム『All the SONG HITS of the 4 SEASONS』かな。
あと、本家と同様のプロダクションでアンサーソングとして制作された女性版フォーシーズンズこと“ラグドールズ”のシングル盤“Society Girl”と“Dusty”、トレイシー・デイによる”Sherry”のアンサーソング”Jerry (I’m Your Sherry)”だね。そして、ボブ・ゴーディオ作、チャーリー・カレロ編曲で、The Four Eversに提供した”Be My Girl“。
オレがFrankie Valli & The Four Seasonsという存在を知って、興味をもったのはビーチボーイズがきっかけだった。
1980年に発売された7枚組のレコードボックス『ビーチ・ボーイズ・ボックス～カリフォルニアより愛をこめて』に付属のブックレットに、ほんの数行だけ、彼らのことが書かれていたんだよね。
「サーファーズ・ルール」は、彼らのホーソン・ハイスクール内の社会的秩序を歌ったもので、ウェスト・コースト・サウンドの正統性の確認でもある。また、フォー・シーズンズをからかった感じがラスト部分のコーラス・パートで明らかにある。フォー・シーズンズのメンバー達は、悪天候が原因で、あるサーファー・ガールが溺死したというひどい内容を持った「ノー・サーフィン・トゥディ」という曲をでっち上げて、我らがサーファー・ヒーローにカウンター・パンチを与えている。
あのブライアン・ウィルソンが、ちょっかいを出したバンドがあるなんてと興味を持ったね。だって認めていなけりゃ、そんなことはしないじゃん。そして彼らの音源を追いかけ始めたんだよね。
ビーチボーイズとフォーシーズンズには、不思議なことに、人気の浮き沈みや復活の時期に共通点が多い。犬猿の仲とされているのに、ジョイントシングル『East Meets West』(1984年)を発売したこともある。
ビーチボーイズは、1998年に訪れたカール・ウィルソンの死によって、完全に空中分解。2012年のアルバム『That’s Why God Made the Radio』とツアーで実質的な終焉を飾った。
フランキー・ヴァリは、今回のボックスセットに関するインタビューで、ビーチボーイズについて、こんな風に語っている。
Yes, it does. The thing that strikes me most about it is the Beach Boys continued to do what they did, and we continued to do what we did. And it seemed that most of the American groups, except for the R&B groups, were copying a little bit of the British sound, or trying to be more like the British sound. It all comes down to be who you are, and that’s where it’s at.
そうだね。一番印象的だったのは、ビーチ・ボーイズは彼らがやったことをやり続け、私たちも自分たちがやったことをやり続けたということです。そして、R&Bグループを除くほとんどのアメリカのグループは、イギリスのサウンドを少し真似たり、イギリスのサウンドに近づこうとしているように思えた。結局は、自分らしくあること、そこに尽きるんだ。
The Four Seasonsは、全盛期のメンバーであるジョー・ロングが1975年に脱退したことで、本来のバンドの意義は失われたと思う。1970年代半ばの新生フォーシーズンズは、ボブ・ゴーディオのメッセンジャーに過ぎないし、1980年代以降はフランキー・ヴァリのバックバンドだ。
現在、89歳になったフランキー・ヴァリは、いまでも現役でステージに立っている。2023年6月26日には、Jackie Jacobs（60歳）と4度目の結婚を迎えて幸せそうだ。
手元に届いた『Working Our Way Back to You: Ultimate Collection』は、想像していたよりも、ずっしりと重くて、縮小されたジャケットも全てが2つ折りタイプで丁寧に作られている。
『Genuine Imitation Life Gazette』のレコード復刻版は、凝ったジャケットと新聞タイプのライナーが完全再現されており、レコード自体は未発表のモノバージョンだ。
付属の資料も、収録されているトラックの解説書、彼らがリリースしてきたシングル、アルバムジャケットの資料集、そして辿ってきた歴史の解説書と、手抜きのない素晴らしいもの。まさに集大成だ。
Frankie Valli & The Four Seasonsが残した音源については、この大玉で終了かな。
※ FRANKIE VALLI and The FOUR SEANS『Working Our Way Back to You: Ultimate Collection』収録曲
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■外部リンク(The Ultimate Collection)
・Review「 The Ultimate Collection」… Joe Marchese
・”The Snapper Music Box Set – The Project Review – Part 1”…Ken Charmer
・”The Snapper Music Box Set – The Project Review – Part 2”…Ken Charmer
・“The Frankie Valli and The Four Seasons ‘Legacy’ Project“…Ken Charmer
・“The Never-Ending Seasons”…Adam White
・The Four Seasons Appreciation Society（英フォーシーズンズ鑑賞協会）Web版
・The Four Seasons Appreciation Society（英フォーシーズンズ鑑賞協会）Blog版
・トミー・デヴィート語る
・A Touch of Jazz / Frankie Valli (Green Hill Productions)…萩原健太
