会社で昼休みに考え事をしていたら、部下の女性が書類にハンコをもらいにやってきた。
「静 炉巌さん、深刻な顔してどうしたんですか？」
「あぁ、娘の気持ちがわからなくてね」
「ケンカでもしたんですか？」
「してないよ。だってオレ、娘いないし」
「もう、なんなんですか！！ じゃあ、なんで悩むんですか！」
「ちょっと言ってみたかったんだよ。オレは息子しかいないから、そんなこと言う機会なんてないからさ」
「このタイミングで言わないでください」
「まぁまぁ。来週からはじまるコロナワクチンの職域接種のことを考えてたんだよ」
「へぇ、静 炉巌さんでも副反応とか不安なんですか？」
「うちの両親が先週に2回目のワクチン接種を受けてきたんだよね。で、この前、調子はどうかって聞いたわけ。なんて答えたと思う？」
「高熱が出ちゃったんですか？」
「いや、ヒザが痛いのが治って調子がいいって言うんだよね」
「なんですかそれ？！ ワクチンにそんな効果があるんですか？」
「ないんじゃないの。たぶん、気のせいだと思うよ。ブラシーボ効果みたいなもんだよ。でもね、そこでオレは思ったわけ。だったら積極的に思い込みの効果を使うのもアリだなって」
「…」
「つまりさ。コロナワクチンは万病に効くって思い込むんだよ。腰痛にも効くし、鼻炎にも効く。それどころか運がどんどん良くなって、女性にもモテモテ。仕事のオファーはくるわ、知らない親戚から大金を相続するわ、スリムになって背も伸びる。どう？」
「…どうって言われても」
「まぁ、そんな感じのイメージトレーニングをしてたんだよね。注射は痛くないかなって心配するよりいいじゃん。あなたもやってみたら？」
「結構です。それより静 炉巌さんの心配って副反応じゃなくて、注射がイタイかどうかなんですか？」
「そうだよ。オレは注射が大嫌いだからね。昔、貧血になったことがある」
「ふーん。ワクチンを打てば治るんじゃないですか」
テキトーな相槌ちを打つ部下。おまえは注射で転げまわるほど痛くなれ！
