『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂に隣接しているカフェのカウンターでは、暇そうな葛楽堂の店主が、たいてい本を読みながら珈琲を飲んでいる。
「桃源さん。何やってるの？」
「見ればわかるだろ。読書の邪魔だぞ」
「まぁまぁ。この前、実家に行ったときに納戸をのぞいてみたら、『ゴーストバスターズ』（Ghostbusters）の”Ecto-1”の玩具が4個もあったんだよね。記憶からすっかり抜けてたから、ちょっとビックリした」
「また古いな。第1作の『ゴーストバスターズ』は、1984年だろ？」
1984年『ゴーストバスターズ』
1989年『ゴーストバスターズ２』
2021年『ゴーストバスターズ/アフターライフ』
2016年『ゴーストバスターズ』<リブート版>
「うん。正直、映画自体はたいして面白いとも思わないんだけど、Ecto-1の存在感が素晴らしくてさ。それだけで満足できるんだよね」
「あのデザインは傑作だな。テールフィンの最高峰である1959年型キャデラックのワゴンタイプ（Cadillac Miller-Meteor hearse）がベースになっているところがいい」
「そうそう！ ルーフに、やたらとヘンな機材を積んでてさ。ライトを点滅させながら妙なサイレン音と共に走るとことなんて最高じゃん。白と赤を基調にしたカラーリングとオバケのマークも似合ってるしさ」
「Ecto-1のデザインを担当したのは、ハードウェアコンサルタントのStephen Daneだったな。 彼は Ecto-1 と Ecto-1a の開発の設計と監督を支援し、詳細な計画と内外装の立面図、および車とルーフ ラックの詳細な等角図を作成した」
「そうなんだ」
「そういえば。2017年に『Ghostbusters: Ectomobile Owner’s Workshop Manual』 という洋書が、Haynes社から出版されているぞ。同社は、2021年に『Back to the Future: DeLorean Time Machine: Doc Brown’s Owner’s Workshop Manual』というデロリアンの本も出版している。これは日本版も出版されてる」
「そういうのって楽しいよね」
「ところで、なんでEcto-1の玩具を４台も持ってるんだ？」
「昔は、Ecto-1の玩具なんてあまりなかったんだよ。で、発売されたらな、その時に手に入れないと、あとになったら手に入らなくなるだろうなって感じでさ」
「今みたいに次々と製品化される時代じゃなかったからな」
「そうなんだよ。一番最初は、『ゴーストバスターズⅡ』の公開にあわせて、AMTから発売されたEcto-1Aのプラモデルだったんだよね。スケールは1/25で、ボディは全長約25cm」
「Ecto-1のプラモデルは、2002年にPolar Lights社からも発売されているが、AMTの方が評判がよかったみたいだぞ」
「実は、同じ頃に発売されたAMT社のバットモービルも買ったんだよね」
「ティム・バートン版のバットモービルな。もっともお前のことだから、どちらも組み立てずに、“積んどくプラモ“になってるだろ？」
「うん。だって、プラモデルって塗装とか難しいじゃん。あと同じ頃に、Hot Wheelsの1/64のミニカーを買ったんだよ。ちゃっちくはあったんだけど、完成品として手にはいるのは嬉しかったな」
「なるほどな」
「当時は、まさか随分と後になってから、新たな玩具が発売されるなんて思わなかったからね。でも、2010年になってHot Wheelsから、1/43の“Ghostbusters Ecto-1“が発売されたんだよ。精密なやつ」
「また手を出したのか？！」
「う…うん。で、さらに1/18のダイキャストモデルがリリースされてさ。これが、またやたらといい感じでさ。でも値段も高かったから、エイっとばかりに手を出したんだよね。結局、置き場所がなくて箱に入れたままなんだけど」
「典型的な無駄遣いだな」
「でも、1/18モデルは流石によくできてるよ。内部の謎の計器類もちゃんと再現されてるし。ダッシュボードも、1959年型キャデラックをこんな風にカスタムしたのかって想像できるしさ。これで電飾とサイレンがあれば言うことないんだけどな」
「電飾とサイレンなら、Playmobile社の“ゴーストバスターズ“シリーズのEcto-1とEcto-1Aで実現されてるぞ。もちろん、子供用玩具だから精密さよりも雰囲気重視だけどな」
「Playmobileはデフォルメが上手いものね。『Back to The Future』のデロリアンもいい感じにデフォルメされてて、電飾も見事だったし」
「Playmobile社は、Ecto-1とEcto-1Aだけじゃなく、消防署を改造したゴーストバスターズの建物も製品化している」
「なんか凝ってるね。どうせなら、マシュマロマンもあればいいのに」
「もちろん、マシュマロマンも出ているぞ」
「いいねぇ。でもさ、よく考えたら“ゴーストバスターズ“って40年前の映画じゃん。今の子供が面白いと思うのかな？ そもそも知ってるのかねぇ？」
「映画は観てなくても、“お化け退治“ってだけで、子供は興味をもつプレイセットなんじゃないか？」
葛楽堂の店主は、そういうと珈琲のお代わりを注文した。
