[登場人物] ■子分1号 ■子分2号 |
”ちゃっぴ”こと子分2号が産休を終えて、一年ぶりに職場に復帰した。
子2:「いやー、なんか緊張するね。知らない人も増えたし」
静 :「この1年で亡くなった人も増えたよ。西野さんに岡本さんに和田さんでしょ、なんか定年になってすぐに逝っちゃったね。」
子2:「えぇー!」
静 :「だいたい”ちゃっぴ”ちゃんと顔をあわせるのだって、T田さんの葬式以来じゃん。コロコロと死んじゃうんだよね。で、オレの予想では次はね…」
子1:「やめなさい!」
静 :「…」
子2:「やーい、怒られてやんの!」
静 :「うるさいよ」
子1:「静炉巌さん、亡くなった人で遊ぶのはやめなよ!」
子2:「そうだよ。だいたいさっきだってさ。亡くなったT田さんの名前をテスト用のユーザにして、社内にテストメールを出すとかって言ってたじゃん。それで夜中に勝手にメールがきたらどうしようとかっておちょくってさ」
子1:「ホントに地獄に落ちるからね!」
子2:「それは決定だよ!…っていうかさ、よく今まで無事に生きてこれたよ。よっぽどむごたらしい死に方が待ってるんじゃん。サウナの隙間でひからびてたりとか。わははー!」
静 :「そうやって笑ってるけどね。今ごろ、子供は初めての保育園で園長先生に殴られて泣いてるんだよ。『助けて、ママー』とかって涙を浮かべてさ。帰ってきたら、異様に水を怖がるようになってて」
子2:「そんなわけないもん。でも、まだ慣れてないから、朝、保育園に預けると泣き出して大変なのよ」
静 :「それはかわいそうだねぇ」
子2:「うん、保母さんは子供を受け取ると”早く見えないとこに行って!”って感じなの。親の姿が見えると泣きやまないから」
静 :「なるほどね。だったら、見えないように袋詰めにして渡せばいいんじゃないの?」
子2:「もっと泣くよ!」
静 :「じゃぁ、怖がらないように、サンタの恰好で袋を背負うとか工夫してさ」
子2:「意味ないよ!」
静 :「でも、そのうち保育園生活にも慣れたら、迎えにいっても『帰りたくない!』って泣き出すようになるから大丈夫だよ」
子2:「そっちの方が心配だよ!」
静 :「きっとT田さんが見守ってくれるよ」
子2:「…でも、T田さんが亡くなっちゃったなんて、未だに実感が湧かなくない?」
静 :「湧かないね。だって、毎日のようにここに顔を出してくれてたもんね」
子2:「T田さん、幽霊になって出てくればいいのに。私はT田さんだったら全然怖くないよ。会いたいもん」
静 :「腐ってても?」
子2:「うっ…そんなことないよ! T田さんは元気だもん!」(死んでるだろ!)
静 :「幽霊なのに?」
子2:「いいの! だって、今この部屋にいたって自然な感じだもん。実はそこらへんの書類の陰に埋もれてたりしてさ」
静 :「埋まってるのは土の中だよ」
子2:「うっ…でも、いてくれたら嬉しいでしょ?」
静 :「そりゃ嬉しいよ。んで、T田さんはちゃっぴちゃん(子分2号)のとこに行って『お腹にいれてー』とかって言ったりしてね。…そんで、第二子誕生」
子2:「生まれた子は、眉毛が太かったりして。わははー」
静 :「そうそう! そんで乳母車に乗せて散歩してたら、ふっと振り返って『生前はありがとう…』って低音でお礼を言われたりしてね」
子2:「…」
静 :「どうしたの?」
子2:「…こわいよ! 途中まで調子にのって話してたけどもうダメ。本当に怖くなってきた。」
子1:「もう止めな! どうして静炉巌さんはいつもそうなの!! 本当に地獄行きだよ。フルコースで!」
子2:「特盛りで地獄だよ!」
静 :「…オレだけ?」
子2:「いいから、今から行っといで!!」
静 :「…」
「今から行っといで」…まるで近所のお使いにでも送り出すかのように、地獄行きを指示する子分ども。
私は「ここは霊界の入り口かよ」と、そっと心でつぶやいた。
静 炉巌