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[登場人物] ■子分１号 ■子分２号 |
外線電話の受話器を戻した子分１号は、慌てたようにバタバタとあちこちに内線をかけた後、不審そうな表情で話しかけてきた。
子１：「静炉巌さん、Ｔ社から”先々月分の請求書の支払いが来てない”って電話が来たんだけど。」
静 ：「えっ？ 先々月前？ じゃ、早く処理してよ。」
子１：「私、静炉巌さんに提出したと思うんだけど…また失くしてないですよね？」
静 ：「えっ？ オレ？ ちょっと疑わないでよ！ オレは雑なときはあるけど、大事なものは絶対になくさないよ。自分のとこを探しなよ。」
子１：「もう探しました。でも、チェック用のデータベースには私が処理したマークがついてるし、経理にも確認したけど提出されてないって。怪しいのは静炉厳さんなんだけど…。」
静 ：「オレじゃないって！！！ でも、請求書だったら再発行してもらえばすむことじゃん。」
子１：「イヤですよー！ ２ヶ月ぐらい前にも静炉巌さんが請求書失くして再発行したのに、また再発行を頼むなんて”どんな人だ”と思われるじゃないですか！」
静 ：「あっ、ちょっと待ってよ。この部屋にはもう一人いるでしょ。犯人は…」（子分２号を見る）
子２：「えっ？ あたし？ 違うよ！ なんかドキドキしてきたから、今、自分の机を探したけどなかったもん。だいたい請求書なくすなんて静炉巌さんに決まってるよ！」
静 ：「怒るよ。絶対におれじゃないから。」
子２：「じゃあ、私が静炉巌さんの机を探すよ。どいて！」
子分２号は、つかつかと私の机に歩み寄るとガサゴソと机の上の書類をどかしはじめた。
静 ：「オレの机の上にはないっつーの！ ちょっと聞いてる？」
子２：「…」（黙々と作業）
ひととおり机の上を検分した子分２号であったが、請求書は見あたらないので不服そうである。
静 ：「ねっ？ なかったでしょ。子分１号さ、とりあえず請求書の再発行の件、電話しといてね。」
子１：「はいはい。」
渋々と電話をかけはじめる。
静 ：「ほら、子分２号、あきらめな。犯人はオレじゃないんだから。」
子２：「じゃあ、誰なのよ？」
静 ：「たぶん、部長だよ。オレが提出した請求書は、そのまま机の書類の中に埋もれてると思うね。結構、だらしないからなぁ。」
子２：「ふーん、部長、許せないね。」
静 ：「だろ？ 部長なんて、結構いい加減なヤツなんだよ。あとでさりげなく請求書の件、聞いておくから。」
子１：「静炉巌さん、請求書の再発行の件、電話しました。あぁー、恥ずかしかった…んっ？ あぁっ！！」
静 ：「なに！？」
子１：「これは…。あーーーっ！！ これだ！！」
子分１号は、まるで獲物をみつけた山猫のように俊敏な動きで、私の机の下から書類を拾いあげた。
静 ：「えぇー！！！」
子２：「やっぱり静炉巌さんだったんだ！！ 」
静 ：「ちょっと待ってよ。どこにあったの？」
子１：「静炉巌さんの机の下になんか紙が見えてるなぁと思ったら請求書が落ちてた！！」
子２：「”自分の机にはない”って部長のせいにしてたよね。部長にチクるよ。」
静 ：「でも、机の下にあったわけでしょ？ オレは”机の上にはない”って言ったんだもん。」
子２：「あぁーあ、やってられないよ。時間を損した！」（捨て台詞）
子１：「再発行を止めなきゃ。また電話するのイヤだなぁ。」
静 ：「…でも見つかってよかったよね？」
子１：「…」
子２：「…」
静 ：「はいはい、すみませんでした！ 各自、仕事！！」
子２：「やってるよ！ そういえば昨日の帰り、静炉巌さんが私の質問に答えをメモしてくれてたよね。あのメモは？」
静 ：「えっ？ またオレ？」
子２：「そうだよ！」
子１：「またぁ！？」
静 ：「ちょ…ちょっと待って、探します。」
子２：「早くみつけてよ！」
静 ：「確か、机の上に置いておいたんだけど。」
子２：「また机の下じゃないのぉ？」
静 ：「いや、ないみたいです。間違って捨てちゃったかな？」
子２：「…」
これでまたメモ書きまで無くしてたら信用ゼロである。私は念のために机の横のゴミ箱をあさってみた。果たしてそこには、見覚えのあるメモ用紙が落ちていた。
静 ：「あっ、これだ！ あったよ…。あうっ！！！ 汚ねぇ！！」
子２：「なに？」
静 ：「ガムが包まれてる！！」
子２：「…それ、あたしが捨てたやつだ。」
静 ：「なにぃー！！ なんで上司のメモでガムを捨てるんだよ！」
子２：「まぁまぁ、読めればいいんでしょ。私が読むから。ええっと…あれっ、読めないな。」
静 ：「ガムなんか包むからだよ。反省しろよ！」
子２：「静炉巌さんの字が汚くて読めないんだよ！」
子１：「そうそう、静炉巌さんの字は汚なすぎ！」
静 ：「…」
それにしても、この展開はいかがなものであろうか？ 子分２号が”メモ用紙を捨てた罪”がいつの間にか”私の字の汚さ”にすり替えられているのである。
私は、”いつか、こいつらの机の上の書類を隠しておいて、オレが発見したフリして威張ってやるからな！”と固く心に誓うのであった。
by 静 炉巌(03/09/15)
