The Beach Boysが1992年6月にリリースしたアルバム『Summer in Paradise』は、とにかく評判が悪いアルバムだ。
このアルバムは、マイク・ラブが主導権を握って、テリー・メルチャーと共に制作したアルバムで、ブライアン・ウィルソンは一切関わっていない。
テリー・メルチャーは、1988年にチャートで一位になった”Kokomo”の作曲者で、本アルバムではプロデュースと6曲を提供している。
でもね、ブライアン・ウィルソンが関わっていなかろうとも、アルバムの完成度が高ければそれでいいわけさ。評価が低いのは、その完成度が低いからってことに他ならない。
発売時の米国での売上げは1000枚未満だったとも伝えられており、リリースの売上げ不振は、独立系配給会社 Navarre が倒産する一因になった。
『Brian Wilson and the Beach Boys the Complete Guide to Their Music』の著者であるAndrew G. Doeと John Toblerは、『Summer in Paradise』を、「彼らのレコーディング・キャリアの絶対的などん底」と評しており、 Doeは「本を書いている間、このアルバムを3回聴かなければならなかった。それは、たぶん生涯の傷になった」とも語っている。随分な言い様である。
確かに12曲中の5曲が気の抜けたカバー曲だし、カール・ウィルソンとアル・ジャーディンの作品はひとつもなく、出番も少ない。都合よくコーラスに使われたようにみえる。
ドラムは安っぽい打ち込みで、バックミュージシャンには、ツアーメンバーさえも含まれていない。
Kokomoの焼き直しみたいな曲もあるし、タイトル曲『Summer in Paradise』は、上っ面の環境問題と内輪受けを盛り込んだ、マイク・ラブの薄っぺらい歌詞が、どうにも気持ち悪い。実際のところ、米盤は冗長で退屈だ。
1. Hot Fun in the Summertime (Sylvester Stewart)
2.Surfin’ (Brian Wilson/ Mike Love)
3.Summer of Love (Mike Love/ Terry Melcher)
4. Island Fever (Mike Love/Terry Melcher)
5.Still Surfin’ (Mike Love/Terry Melcher)
6. Slow Summer Dancin’ (One Summer Night) (Bruce Johnston/Danny Webb)
7. Strange Things Happen (Mike Love/Terry Melcher)
8.Remember “Walking In The Sand” (George Morton)
9.Lahaina Aloha (Mike Love/Terry Melcher)
10.Under the Boardwalk (Mike Love/Artie Resnick/Kenny Young)
11.Summer in Paradise (Mike Love/Terry Melcher/Craig Fall)
12.Forever (Dennis Wilson/Gregg Jakobson)
“米盤は“と書いたのは、『Summer in Paradise』には、２つのバージョンがあるからだ。
ひとつは1992年に発売されたオリジナルバージョンで、日本盤も米盤と同じである。もうひとつは1993年になってから、英国向けに楽曲をリミックスもしくは編集して発売したセカンドバージョンだ。
このバージョンでは、単にリミックスがなされただけではない。”Island Fever”は、歌いだしのAメロ以外の部分を全く別のメロディ、歌詞に変えて再録音。
“Under The Boardwalk“は、中間部で「Under The Boadwalk」に呼応するコーラスが加わり、曲時間も20秒ほど短い。“Strange Things Happen“は、冗長なエンディングが米盤より１分以上短く編集された。
”Summer in Paradise ”は、元バーズのロジャー・マッギンがギターとボーカルで参加、コーラスも華やかになり、原曲よりも遥かに素晴らしい。
残念なのは、ロジャー・マッギンのソロパートで、なぜカール、アル、ブルースではなく、ロジャーなのか理解に苦しむ。
“Forever“は、プロモ・シングルで発表された２つのリミックス・バージョンのうち、エレキ・ギターをカットした「AC Mix（アダルト・コンテンポラリー市場向けミックス）」に差し替えられた。
このセカンドバージョンについて、ブルース・ジョンストンは、1993年6月にMike Grantのインタビューで、こう語っている。
「（『Summer In Pradise』は）一年ぐらい早く、やっつけ仕事で出してしまったので、まだ未完成だと思うものをやり直そうとした。そんなわけで4曲をリミックスした」
そりゃないんじゃないの？と思わせるコメントだ。ビーチボーイズのキャピタル・デビュー30周年だった『Summer In Pradise』は、世間からは完全に無視された。
代わりに注目されたのは、翌1993年にキャピタルからビーチ・ボーイズのデビュー30周年を記念して発売されたCD5枚組ボックス『Good Vibrations – Thirty Years Of The Beach Boys』の方だった。
繰り返すけれど、アルバムにブライアン・ウィルソンが参加していないことは仕方がない（ブライアンは、当時、ランディ医師の洗脳下にあった）。
1970年代前半のように、他のメンバーだけで良いアルバムを作ればいいだけのことだ。
でも、『Summer In Pradise』は、クオリティが低いだけではなく、マイク・ラブのエゴが剥き出しになったアルバムだった。
まともな感覚なら、目先の話題性でメンバーの代わりにロジャー・マッギンにボーカルをとらせたり、ジョン・ステイモスの歌う”Forever”を収録したりはしない。
”Forever”は、デニス・ウィルソンの特別な曲だ。それはカール・ウィルソンの大切な曲”God Only Knows”を、メンバー以外がカバーしてアルバムに収録するようなものだ。
しかし、そんなアルバムではあっても、ビーチボーイズのコーラスにはマジックがある。カール、アル、マイク、ブルースの声が重なったときの他のどこにもない広がりは素晴らしい。
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そんなわけで、『Summer In Paradise』は、Robert Lyn Nelsonによるアートワーク（Elements of the Universe、Ring of Life、Embraced By the Sea、Amethyst Dawn）が、鉄板の夏曲を想像させたものの、完全なジャケット負けで、再録音された英盤のタイトル曲以外には、どうに惹かれるものがなかった。
でもね、先日、YouTubeで、ビーチボーイズの1993年11月26日のニューヨーク・パラマウントシアター・ライブと、そのリハーサルの音源を聞いたわけ。
オーディエンス録音ではなく、コンソール録音のようで音もよかったんだけど、このライブは彼らにしては、珍しく気合いの入ったステージだった。
『Good Vibrations:Thirty Years of The Beach Boys』ボックスのヒットに機嫌をよくしたのか、珍しい選曲やアレンジも多く、アンプラグドのコーナーも設けて充実したステージとなっている。
メンバーもボーカルを分けあっていて、ブルース・ジョンストンが歌う”Do You Wanna Dance”、アルの”Come Go With Me”、アコースティックな“Hushabye“、“All This Is That“、リハーサルの“Disney Girls (1957)“なんて涙モノだ。
ビーチボーイズのライブ音源が気に入って聞き返すなんて、本当に久しぶりのことである。
で、オレはあらためて、『Summer In Paradise』から何曲をセレクトして、ブライアンのいないビーチボーイズの楽曲を加えて、1990年代をメインにした夏ベストを作ってみた。これが自分でも気に入っている。
01 – Summer In Paradise（英盤）
02 – Island Fever（英盤）
03 – Still Surfin（英盤）
04 – Strange Things Happen（英盤）
05 – Slow Summer Dancin’ (One Summer Night)（英盤）
06 – Kokomo（シングル 1987年）
07 – Remember Walking In The Sand（英盤）
08 – Under The Boardwalk（英盤）
09 – Summer In Paradise（米盤）
10 – Island Fever（米盤）
11 – She Believes In Love Again（California Music Presents Add Some Music 2007年)
12 – Please Let Me Wonder (The King Singers feture Bruce Johnston 1997年)
13 – Disney Girls(Papa Doo Run Run 1975年)
14 – KOKOMO (Spanish Version) （シングル 1989年Brian参加)
15 – Island Girl (Brian参加)
16 – Acapluko Girl（Sol De Mexico 1998年）
17 – Fun Fun Fun(Status Quo with The Beach Boys 1996年)
18 – Do You Wanna Dance(Paramount Theatre Live 1993年）
19 – Summer In Paradise(Paramount Theatre Live 1993年)
20 – Kokomo(Paramount Theatre Live 1993年)
21 – Disney Girl(Paramount Theatre Live Reharsal 1993年）
22 – All This Is That(Paramount Theatre Live 1993年)
23 – Heroes and Villain(Paramount Theatre Live 1993年)
24 – Good Vibrations(Paramount Theatre Live 1993年)
25 – Happy Ending(Terry Merchaer 2011年)
2023/8/7
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アルバム『Summer In Paradaise』”をプロデュースしたテリー・メルチャー（Terrence Melcher）は、Kokomoの作曲者で、ブルース・ジョンストンの朋友でもあるんだけど、2004年に癌で亡くなっている。
母親のドリス・デイ（Doris Day）は、息子のメモリアルとして2011年に発表したアルバム『My Heart』に、テリー・メルチャーが歌う未発表の”Happy Ending”を収録した。
このアルバムは、テリー・メルチャーが、生前に母親をプロデュースしていた未発表録音を中心としたコンピレーションでもある。ドリス・デイは、89歳。ラストアルバムだ。
■『My Heart』
01.”Hurry, It’s Lovely Up Here” (Alan Jay Lerner, Burton Lane)
02.”Daydream” (John Sebastian)
03.”The Way I Dreamed It” (Bruce Johnston, Terry Melcher)
04.”Heaven Tonight” (Bruce Johnston)
05.”My One and Only Love” (Guy Wood, Robert Mellin)
06.”My Heart” (Bruce Johnston, Terry Melcher)
07.”You Are So Beautiful” (Billy Preston, Bruce Fisher)
08.”Life Is Just a Bowl of Cherries” (Ray Henderson, Lew Brown)
09.”Disney Girls” (Bruce Johnston)
10.”Stewball” (on US release only) (Traditional, arranged by Terry Melcher)
11.”My Buddy” (Walter Donaldson, Gus Kahn)
12.”Happy Endings” (Bruce Johnston, Terry Melcher) (intro by Doris Day, sung by Terry Melcher)
13.”Ohio” (Betty Comden, Adolph Green, Leonard Bernstein)
2023/8/8（火）
