会社の業績が好調だったので、ディズニーリゾートのチケットが配られた。
さっそく休日の朝に6歳の息子に声をかける。
「ねぇ、ディズニーランドのチケットもらったけど、行く？」
「行かない」
即答である。こいつはまだ４歳ぐらいのときに、「全然、怖くないよ」と騙くらかしてスプラッシュマウンテンに乗せたら、最後に待ち受けている滝から落ちる急激な下りコースでビビってしまい、それ以来、ディズニーランドを嫌がるようになってしまったのだ。
「そんなこと言わないで行こうよ。楽しいよ」
「イヤだ。行かない」
「じゃさ、ディズニーシーは？ アメリカの古い町並み。楽しいぞー！」
「行かない」
「お前ねぇ。ふつーの子供は、『ディズニーランドに行く？』って聞かれたらワーイって大喜びするんだよ」
「…」
「じゃ、お父さんがお手本を見せてあげるから、よーく見ておけよ。ちょっと、お父さんに聞いてみて！」
「えっ？ なにを？」
「だからさ、お父さんに『ディズニーランド、行く？』って聞いてみてよ」
「ディズニーランド、行く？」
「…えぇっ？」
「…」
「まず今のが第一のポイント！ 突然にディズニーランドに行くって聞かれたけれど、まさか、そんなこと言うわけないよなって感じで聞き返すんだよ。まだ心の準備ができてない感じ。でね、聞き返すまでに、ほんの少しだけ時間がかかるわけ。これを”間（ま）”って言うんだけどね、そうだな、一回、息を吸うぐらいの時間かな。これが大事。もう１度、聞いてみて」
「ディズニーランド、行く？」
「…えっ？」
「…」
「ねっ、これぐらいの感じ。で、今度は聞かれた方が聞き返すんだよ。ホントにディスニーランドに連れてってくれるのかなぁって、ちょっと期待した感じで聞き返すわけ。行くよ。…『えっ？ 今、なんていったの？』 …ここでもう１回、ディズニーランドに行く？って聞いてみてよ」
「ディズニーランド、行く？」
「ほんとに！ ディズニーランド！？ やったーー！ 行く行く！ 絶対いく！ わーい！ ディズニーランド、ディズニーランド！」
「…」
「このときはバンザイして、こんな感じで手を上げたり下げたりしながら、ぴょんぴょん飛び跳ねるんだよ。お父さんは全身で喜びを表してるだろ。顔なんかもうニコニコだよ。わかるっ？ これがディズニーランドに行く？って聞かれたときの子供の正しい喜び方だから」
「じゃあ、今度はお前の番ね。やってみて、いくよ。『ディズニーランドのチケットもらったけど、行く？』」
「行かない」
なんだよ、もう！！ おまえ、ディズニーランドのトラウマを引きずりすぎ！！
