『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂の店主の机にオート三輪のミニカーが飾ってある。
「桃源さん。これってオート三輪じゃん！ 懐かしいな」
「あぁ、”ダイハツ CM8 1968”な。2020年 11月18日に発売されたアシェット・コレクションズ”懐かしの商用車コレクション”シリーズの第6号だ」
「子供の頃、大船に住んでたんだけどね。歩いて5分ぐらいのところに”佐藤食品”っていう店があったんだよね。で、店の脇の道路にこの三輪トラックが停まってた。近くをとおるときは眺めながら歩いたな。店はいつの間にか”うさぎや”って名前になってたけど、当時はふつうに”八百屋”って呼んでた。」
「八百屋か。昔はそんな感じだな。”やおや”とか”魚や”とか」
「うん。で、その店は野菜も売ってるんだけど、駄菓子とかアイスとかも売ってた。大きなガラス瓶に入ったイカの串とかさ。そこで”ベビーラーメン”を買ってもらうのが楽しみだったな」
「”ベビーラーメン”が”ベビースターラーメン”に改名したのは1973年だったな」
「あの改名はイヤだったな。『ガキ向けの名前にしやがって！』って思ったよ」
「たいして変わらんだろ」
「あと三色アイスを買ってもらうのも楽しみだった。カップにバニラとチョコとストロベリーが3分されているんだけど、どれから食べるか毎回、悩んだな。あのアイスはまた食べてみたい」
「そのアイスはオレも覚えているが、名前がわからんな」
「そうなんだよね。この前、”日本アイスクロニクル”って本で調べたけど出てないんだよね」
「ローカルのアイスだったとは思えんがな」
「だよね。そういえば、その店の2軒隣に秋葉商店っていう店があってね、第一パンの旗っていうかノボリが立ってたんだよ。でも、”だい”っていう漢字が読めなくてさ。勝手にカタカナの”ヤ”に変換して、”ヤーパン”って呼んでたな」
「ヤーパン？」
「うん。あとね…」
「ちょっと待て！ おまえ、懐かし話が長くないか？」
「だって実際に自分の思い出として残っている車って楽しいじゃん！ あの頃の大船の町並みや思い出が湧いてくるんだよね」
「そういう話は地元のヤツらと語ってくれ。オレは入れんぞ」
葛楽堂の店主はため息をひとつつくと、テーブルの上の珈琲を飲み干した。
