土で汚れた前足を、そっと新聞紙の上にのせれば”落ち葉のスタンプ”になります。私はときどき、たくさんのスタンプを床上に押して模様替えをするのです。 私は16歳になる老猫（メス）です。人間で言えば齢80歳ぐらいでしょうか？ 諸事情により名前を明かすのはご勘弁ください。 私は静寂を好んでいます。老いた私の毎日は、キャットフードと煮干しといった質素な食事と近所の散歩、そして陽射しを浴びながら窓際でのんびりと眠る…そんなことの繰り返し…。 でも、それはとても平和で幸せな毎日でした。そう、アイツが来るまでは…。 |
チロが家にやってきた日、お婆さんが静 炉巌さんに宣言した言葉を私は忘れません。
お婆さんは「私はミ○ちゃん（私のこと）の面倒しかみぃーへんで。うちではミ○ちゃんが一番や！」と言ってくれました。
そのお婆さんが、最近、なんだか怪しいのです…。
チロは生後４ヶ月。キャットフードを食べてるくせに哺乳瓶でミルクを飲むが大好きで、静 炉巌さんが帰ってくると「ミーミー」と甘えてミルクをねだります。
幼稚なガキ！ でも静 炉巌さんはバカなので、チロにせがまれるとイソイソと粉ミルクをお湯で溶き始めるのです。ほんとにもうこのヒトは！ チロはもうミルク離れの時期なんだよ！
ところがある日、外で遊んでいた私がいつもより早く家に帰ってくると、お婆さんがチロにミルクをあげていました！
「あっ！」…お婆さんは私と目があうと気まずそうに視線をそらしました。
チロのやつ、私のお婆さんのヒザで何してるんだよ！！
チロは私をチラっとみると、「どや。わし、かわいいやろ？」とニヤっと笑ったような気がします。悲しくなった私は、また外に出て行きました。
そんなことがあってから一週間が過ぎたでしょうか。
私がリビングで昼寝をしていると、外出していたお婆さんが帰ってきました。部屋の入り口でお婆さんが静 炉巌さんに話しかけている声が聞こえます。
「今日は絵を買ってきたで」
「えっ？ 何の絵を買ってきたの？」
「フクロウの絵！ ８万円や！」
「えぇーっ！！」
は…８万円！！ いったいツナ缶をいくつ買えるのでしょう？ それにしても、お婆さんに絵の趣味があったなんて今まで知りませんでした。。
「でも、なんでまたフクロウの絵なんて買ったの？」
「このフクロウな、チロに似てたんや」
えぇっーー！！？？ お婆さんは買ってきた小さな絵をさっそくリビングに飾りました。
静 炉巌さんの目は、”こんな絵に８万円って、絶対に騙されてるんじゃないの？”と語っています。
でも、チロに似てるというだけでフクロウの絵を買ってくるなんて。チロのことなんて知らないって言ってたのに…。
なんだか最近、お婆さんが怪しいのです。
