楽園を追われて:第五話 蛮行!

コタツでぬくぬくしている時間って最高ですよね。これで煮干味のミカンでもあればなぁ…

私は16歳になる老猫(メス)です。人間で言えば齢80歳ぐらいでしょうか? 諸事情により名前を明かすのはご勘弁ください。

私は静寂を好んでいます。老いた私の毎日は、キャットフードと煮干しといった質素な食事と近所の散歩、そして陽射しを浴びながら窓際でのんびりと眠る…そんなことの繰り返し…。

でも、それはとても平和で幸せな毎日でした。そう、アイツが来るまでは…。

なんだか、チロが来てから急に家がボロくなった気がします。まだ10年以上もローンが残っているらしいのに。

階段の手すりは傷だらけになりました。

チロが手すりで猿のようにクルクル回ったり、よじのぼったりするからです。

食堂のドアの木目は無残に毟られています。

チロが爪をとぐからです。

家中のカーテンはボロボロになりました。

チロが爪をひっかけてズンズンと登って遊ぶからです。

ブラインドの紐は千切れています。

チロが齧ったからです。

和室の障子は穴だらけです。

チロが手や顔を突っ込んで外をのぞくからです。

私の楽園がどんどん荒らされていく…。

チロ一匹で、家がシロアリの大群に飲み込まれたみたいです。

ついでに静 炉巌さんのカバンは、握り部分のゴムを齧られてボロボロになっています。どうでもいいことですけど。あの人はチロと遊ぶたびに引っかかれて傷だらけになっています。

でも、そんなの自業自得です。だってチロをちゃんと躾けないのが問題なんです!

子猫を甘やかすなっちゅーの!!

だいたい静 炉巌さんはチロを甘やかし過ぎです。

きっと、この人は人間の女性にはモテないからチロを可愛がっているんだと思います。

だって私だって静 炉巌さんとのお付き合いはお断りですから。

それにしても家中、チロのオモチャばっかし!

ネコジャラシが4本にネコボールが大小6個,”ゼンマイ・ネズミ”に,”起き上がりこぶしネズミ”,”紐つきネズミ”…、おまけに自分でチロのオモチャまで作ったりして、もういい加減にしてほしいです!

そしてチロがまた調子にのって遊ぶから…。

ネコジャラシなんてのは、子供だまし…いや、ネコだましなんだって!

そんなモノをついでのようにこっちに振ったって遊ばないよ! ジャラされてたまるかっつーんだよ、こんチクショー!

でも、ちょっと触ってみたいかも。

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