編み物をはじめようと思ったら涙がこぼれてしまいました。 だって毛糸の玉は転がせるのに、肉球がジャマで編み棒が持てないんです…。 私は16歳になる老猫（メス）です。人間で言えば齢80歳ぐらいでしょうか？ 諸事情により名前を明かすのはご勘弁ください。 私は静寂を好んでいます。老いた私の毎日は、キャットフードと煮干しといった質素な食事と近所の散歩、そして陽射しを浴びながら窓際でのんびりと眠る…そんなことの繰り返し…。 でも、それはとても平和で幸せな毎日でした。そう、アイツが来るまでは…。 |
ある休日の午後のこと。私が出窓で昼寝をしていると、クロネコが千葉から届け物をくわえて訪ねてきました。
そういえば私は先週、老猫会理事の特権で、会員達に”チロに関する情報を探すべし！”というおふれをだしていたのです。だって、敵を倒すためにはまず敵を知ることが基本です。
私はクロネコに煮干しをお駄賃として３匹渡すと、彼の口からひったくるように封筒を受け取りました。
「千葉の隠居、ウニャさんからの情報だよ」
クロネコは、そういい残して去っていきました。私はガレージの車の下にもぐり込むと封筒の中身を引っ張り出しました。どうやら写真が入っているようです。
ふぅん、チロのどんな情報があるっていうんだろ？ あっ、こ…これは！
う…宇宙人！！
これがチロの正体…。きっと円盤から降りてきたところを捕獲された瞬間の写真に違いありません。
宇宙人なら地球の常識なんて通じるわけがありません！！ だからチロは私のゴハンまで食べてたんだ！
写真はもう一枚、入っていました。そこには左にチロが猫に変身する過程が写っており、右には同時に捕獲されたらしい別の宇宙人が、猫への変身を完了して手をふっていました。
地球に宇宙人が紛れ込んでいるというのは本当だったんだ。
私は老猫会におふれを出してよかったと思いました。だって、これでチロの正体がわかったのですから。
相手が宇宙人なら、私にだって戦いようがあります！
私は家に戻ると、テーブルの下で寝ているチロに「私のゴハンを食べるな！ 私のトイレを使うな！ お前出てけよー！」と一生懸命にテレパシーを送りました。
