『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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「桃源さん。このミニカーはなんだかオーソドックな感じのワゴンだね」
「あぁ、1960年に仏Dinky社が発売した”Break Simca 1500“だな。Simca （シムカ）ってのはフランスの自動車メーカーだ」
「ふーん。フランスのクルマなんだ」
「だが、このワゴンにはギミックがあって、後窓を格納してから下半分を手前に倒して開き、荷室のフロアパネルを取り外すとピクニックテーブルになった」
「ありそうでなかったギミックだね」
「もっともテーブルは重くて使いものにならなかったらしいがな。でも、このミニカーもそのギミックを再現しているのだ」
「あっ、これはちょっと愉しいね」
「こういうギミックってのは面白いよな。実車の機能をそのまま盛り込んだってのは評価が高いな」
「なるほどね。でもオーソドックスだと思ってた自動車にそんな仕掛けがあったなんて、なんだかモノの見方が変わってくるね。ふだんは凡人だと思ってたヒトが実はすごい武道の達人みたいな」
「それほどのこともないだろ。凡人だと思っていたら、実は鉛筆回しがちょっと上手かったみたいな」
「それって凡人のままじゃん！」
葛楽堂の店主はニヤリと笑うと、手にしていた珈琲を飲み干した。
