『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂に隣接するカフェエリアで珈琲を飲んでいたら、葛楽堂の店主が声をかけてきた。
「よう、元気か？」
「あっ、桃源さん。どうしたの？」
「この前、おまえが言ってた1995年に発売されたCORGI ボンドカーの復刻版はこれだろ？」
「そうそう！…と言いたいけど、よく覚えてないんだよね。でも、これってオリジナルと同じじゃん」
「似ているが同じではないぞ。いくつかの違いがある。”made in England“の刻印が”made in China“となったのはともかく、まずひとつはジェームズ・ボンドのフィギュアだ。左がオリジナルで、右が復刻版な」
「全然、違うじゃん！ オリジナルは劇中と同じグレーのスーツだし、モールドもくっきりしていて、いかにもジェームズ・ボンドって感じ。復刻版の方はサイドシートから飛ばされる悪役みたいだし」
「うむ。次はヘッドライトから飛び出すマシンガンな。左がオリジナルだ。ギミックは同じだが、明らかにマシンガンが長い。それにボンネット上の膨らみも、オリジナルの方が運転席近くまで伸びている」
「ホントだ」
「リアから飛び出す遮蔽版も同じだ。左のオリジナル版の方が、遮蔽版が高く上がるようになっている」
「ちょっとずつ短いんだ」
「あとはホイールだな。オリジナル版は鋳造されているが、復刻版ばプラスチックだ。だから存在感が違う」
「オリジナルと復刻版って、結構、違うもんなんだね」
「このボンドカーはまだいい方だ。たいていの復刻版は名前ばかりで、実際にはオリジナルの劣化版に過ぎないからな」
「なるほどね。あれっ？ 今日は売りつけようとしないの？」
「このボンドカーは借り物だからな。それよりお前、オレが売りつけるとか失礼だぞ」
「それよりも、いつも買わないことの方が失礼だと思うけど」
「わかってるんなら、たまには買っていけ」
「じゃあ、代わりに今日は珈琲をご馳走するよ」
「うむ。あとでオレの机に持ってきてくれ」
桃源さんはニヤりと笑うと、葛楽堂へと戻っていった。
