『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂のショウケースにGIジョーのマークが描かれたセットが飾られている。
「桃源さん。これもGIジョーなの？」
「うむ。アドベンチャーシリーズの”SECRET MISSION TO SPY ISLAND“のセットだ。いわゆるスパイセットな」
「アドベンチャーシリーズって、ミリタリー路線の次のシリーズだよね」
「うむ。ベトナム戦争によって親はミリタリー玩具を敏感に捉えるようになったからな。そこでハスブロ社は1970年から1976年にかけて、GIジョーのテーマをミリタリーから冒険へと切り替えたのだ」
「ベトナム戦争が影響してたんだ」
「もっともGIジョーは1964年の発売だからな。いつまでも人気が続くものじゃない」
「それはそうだね」
「だからアドベンチャーシリーズの殆どは、それまでのミリタリー用のパーツを組み合わせたり、省略化して製造コストを抑えている。オリジナルパーツはあまりないし、あっても大雑把な出来のモノが多いな」
「じゃあ、このスパイセットもそうなの？」
「あぁ。1967年に発売された”Sabotage”というセットに含まれていたものの流用だ。これがオリジナルな。007映画のヒットもあって人気のある組み合わせだったから”SECRET MISSION TO SPY ISLAND“に引き継がれたわけだ」
「なるほどね」
「スパイセットと同じように見えるがいくつかの違いがある。”Sabotage”のゴムボートは側面に4つの吊り上げリングがあり、アンカーがついていた。オールには黄色のチップとグリップがある。黒の帽子はニットだったが、1969年にラバー性になった。起爆装置にはストラップが付いている。ガスマスクはスパイセットでは省略された」
「ホントだ。いろいろ省略されたんだね」
「もっともそれを補うためかアドベンチャーリシーズは、冒険セットごとにレコードが出ていた」
「レコード？」
「レコードと物語を描いた小冊子のセットだ。スパイセットは1973年に発売されている。子供は冊子の漫画を見ながらストーリーを聴いて気持ちを盛り上げる。で、そのストーリーをネタに遊ぶわけだ」
「遊びに物語性をもたせたんだね」
「そういうこと。どうだ、おまえもレコードとセットでこいつを買って70年代気分を味わってみたら？」
「いやいや、70年代気分は葛楽堂で味わえますから」
私は肩をすくめると葛楽堂をあとにした。
