『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂のショウケースの上に目をひく赤い箱が置いてある。
「桃源さん、あの赤い箱はなんなの?」
「あれはバンダイが1960年代に発売していたサンシャインシリーズのひとつだ」
「サンシャインシリーズ?」
「子供が池なんかに浮かべて遊ぶためのボートのシリーズ玩具だな。バンダイは1965年あたりから”サンシャインシリーズ”と称して、クルーザーやヨットの玩具を販売していたのだ。これが1966年のバンダイのカタログに掲載されていたものだ」
「ボートにヨットに…爆音ボートってのもあるね!」
「爆音ボートは動力源が電池ではなく、模型飛行機のように燃料式だったんじゃないか」
「これってブリキ玩具なの?」
「いや。箱を開けてみろ。船体下部はプラスチックだが、甲板とキャビン部分は木製だ。水で遊ぶことを考慮してブリキという材質は選ばなかったのだろう。ディテールは大雑把だが雰囲気がある。オーエンス(owerns)あたりのクルーザーに似ているな」
「でも、プラスチックと木の組み合わせって時代を感じるね」
「このシリーズもやがてすべてがプラスチックとなる。そして、1972年には同じようなコンセプトながら、プラスチック模型としてのリアルさをアップした小学生以上の高級玩具として”マリンボートシリーズ”に切り替わった」
「でもさ、こういう外で遊ぶ玩具って、いざ遊ぼうと思っても実際に遊べる場所なんて殆どなかったよね。川だと流れちゃうし、池や沼だと藻に引っかかって失くすことになるし。結局は狭い風呂なんだよね」
「そうなんだよな。理想はプールだが、そんなところで遊べるはずもない」
「玩具よりも環境ってことか。それはいまも昔も変わらないよね」
「おまえがプール付きの豪邸でも建てたら遊べるようになるぞ。どうだ? こいつを買って、プール付き豪邸を買うために頑張るってのは」
「ムリすぎだよ!」
私は肩をすくめると『葛楽堂』を後にした。