『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂のショウウィンドウにGIジョーのような黒人の人形が飾ってある。
「桃源さん。この黒人の人形ってGIジョーなの? 昔のマイケル・ジャクソンみたいだけど」
「あぁ、Hasbroが1970~1974年に販売していた”GI JOE アドベンチャーチーム”のメンバーな」
「GI JOEに黒人があったんだ」
「黒人のGI JOEは1965年にリリースされているぞ。白人版の成型色を変えたAction Soldierだけがラインナップされていたが、これは1968年まで製造されていた」
「ふーん」
「やがてベトナム戦争の泥沼化の影響で売上が低迷したGI JOEは、ミリタリー路線から冒険路線に転換を図ったが、それが1970年からはじまる”Adventure Team”シリーズだな」
「路線の大転換だったんだ」
「まぁ、ベースフィギュアを植毛化しただけで服装や衣装は使いまわしだけどな」
「だが黒人だけはあらたに造形されているし、衣装もオリジナルなのだ」
「それがこれなんだね」
「だが箱絵を見ると、白人メンバーの”LAND AVENTURE”、”SEA AVENTURE”、”AIR AVENTURE”はファイティングポーズなのに、BLACK ADVENTUREだけはハンドルを握っている。この時代ならではポジション付けをされていたのかも知れないな」
「助手みたいな感じなのかな」
「そのあたりの感覚は、日本という単一民族の国に住む我々にはわからんがな」
「単一民族の国っていうと差別って批判されるらしいよ」
「バカか。それが国民の実態だろうが。声を張り上げてるヤツの背景を調べてみろ。大抵はおかしな団体とつながっているぞ」
「まぁまぁ。でも、この黒人GIジョーは渋くてカッコイイと思うけどな」
「うむ。のちに”ADVENTURE TEAM COMMANDER“というトーキングGI JOEが発売されているが、この黒人版はヒゲが植毛されていて、さらに渋くなっている」
「ホントだ。 ”COMMANDER”の意味って”なんだっけ?」
「”司令官”だ」
「じゃあ、助手から司令官に出世したっていうストーリーも考えられるわけだね」
「うむ。どうだ、こいつを買ってそのストーリーを組み立ててみたら?」
「いやいや。別に遊びたいわけじゃありませんから」
私は肩をすくめると葛楽堂を後にした。