『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
＊
葛楽堂のショウケースにシトロエンの移動販売車のミニカーが飾ってある。
「桃源さん。このフラワーショップバンって、この前のカレー販売車と同じシリーズでしょ？」
「うむ。1981年に発売されたトミカダンディのシトロエン・ベンディングバンは4種類ある。ラーメン、ハンバーガー、カレーとこのフラワーショップバンな。あと味の素株式会社の特注モデルが3種類あった」
「フラワーショップバンってホントにあるのかと思ってたんだけど、意外とあるみたいだね」
「商売としては難しいと思うがな。花屋の商売はいかにロスを出さないかだ。だから安定した売り上げを得るには顧客をもつことが大切なのだ。結婚式場とか生け花の師匠とかな。移動販売で顧客を得るのは難しいだろ」
「売れ残ったら廃棄になっちゃうもんね」
「昔は仕入れ値の3倍で売っていたが、今は2倍が相場らしい。ひとりで切り盛りする店なら1日で2万円から2万5千円の売り上げが安心できるラインだというぞ。移動販売は家賃がかからない分だけ下げられるだろうけどな」
「若い世代はあまり花とか買わなそうだしね」
「実際にそうなのだ。花屋の客も高齢化している。コンスタントに売れるのは”仏花”だしな」
「花って枯れると捨てなきゃいけないから贈るのも気が引けるんだよね。それに切り花って、首狩りにも見えるしさ」
「ハンターがライオンの首とか飾る感じな」
「そうそう！」
「そんなわけだから、どうしたら買ってもらえるかをしっかりと考える必要があるのだ。ぬいぐるみやグラス、ボールペンなんかと花のセット販売をはじめて売上を上げた店もあるぞ」
「なるほどね。どうしたら売れるかを考えるのは商売の基本だよね」
「そのとおりだ。お前もこれを買って商売について考えてみたらどうだ？」
「桃源さん、僕で売上げを上げようと思ってるでしょ。でも今月の小遣いはもう残ってないから」
私は肩をすくめると葛楽堂を後にした。
