『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
＊
葛楽堂のカウンターの向こうの椅子で、店主が暇そうに本を読んでいる。
「桃源さん。映画『カーズ』のキャラクターのことなんだけどさ」
「オレの店はそっち系は扱ってないと言ってるだろ！」
「まぁまぁ。お孫さん用のコレクションがあるじゃない。でね、知りたいのはラジエーター・スプリングスの道路を壊した罰として、マックイーンが道路舗装車のベッシーを引く場面があったでしょ？」
「ベッシーか、こいつだな。Mattel “BESSIE“」
「そうそう！ やっぱりあるじゃん」
「でさ。このベッシーなんだけど、どうして他の車みたいに擬人化されてないのかが気になるんだよね。他の車たちとは違って、 あくまでも機械として扱われてるでしょ？」
「そんなことか。それぐらい考えればわかるだろ。カーズの世界で自走できないということはどういうことなのか？ 」
「えっ。どういうこと？」
「人間の世界でいえば歩けないってことだろ？ つまり自走できないベッシーが意思をもっていたとしたら、マックイーンは”罰として身障者を引っ張る”という解釈をされかねない。それはマズイだろ？」
「言われてみればそうだね。」
「うむ。ちなみに”BESSIE“という名前は、基本サービス設備を現す”Basic Service Equipment”の頭文字がきている。このベッシーは結構、複雑な形をしているが、Mattelはそのあたりをうまくモデル化しているぞ」
「これってモデルになった実車ってあるのかな？」
「オリジナルだと思うが、そこまではわからんな。たまには調べて教えてくれ」
「…うっ。出直します」
