『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂のカウンターの向こうの椅子で、店主が暇そうに本を読んでいる。
「桃源さん。マテルの『カーズ』ミニカーについて教えてほしいんだけど」
「オレはそっち系は興味ないと言ってるだろ！」
「実はマテルのカーズで、初期にボコボコに壊れたミニカーがあるって聞いたんだけどさ」
「なにが聞いたんだけどさだ！ お前がオレの話を聞いてないじゃないか。まあいい。初期だったらチャックアームストロング（Chuck Armstrong）だな。こいつだ」
「全然、ボコボコじゃないじゃん！」
「これはボコボコになる前の状態だ。『カーズ』のピストンカップ多重クラッシュで宙を舞い、大破してレッカーされていったヤツだな」
「そういえばいたね」
「『カーズ』は脇役でもそれぞれに設定があるからな。このチャックアームストロングは”燃料アレルギーを患っており、プロレーサーになった後も更に悪化して他のレーサーも近づきたがらないほどにもなるが、これをプラスに変えようかと考えているレーサー”なのだ」
「なんかいじらしいね」
「うむ。レッカーに引かれるときは、泣きながら『連れ出さないで、コーチ。まだ走れるよ』（ “Don’t take me out, Coach. I can still race!”）と言った」
「ますますいじらしい」
「彼のスポンサーは、”ムードスプリングス”（MOOD SPRINGS）。スプリングを製造している会社だ」
「で、ボコボコっていうのは？」
「せっかちなヤツだな。ファイナルラップシリーズのひとつとして発売されたチャックアームストロングのダメージ版だ。初見の時はこんな造形があるのかと驚いたぞ。これでもちゃんと走らせることができるのだ」
「ホントにボコボコだね。すごく痛そう。車体のねじれも汚れの表現もスゴイ！」
「マテルはこういう脇役の一場面を製品化するから驚くよな」
「子供にとっては遊びの幅が広がりそうだね」
「マニア様の魂もくすぐるんだろうな」
