『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂店主が構える椅子の後ろには小さな本棚がある。そこに並んでいる背表紙に気になるタイトルの本がある。
「桃源さん、そこにある緑色の本はなんなの？」
「江ノ島電鉄が、開業100周年記念事業の一環として2002年９月に発刊した『江ノ電の100年』という書籍だ」
「なんだかシンプルな表紙だね」
「非売品だからな。400Pにも及ぶこの本は鉄道以外の事業にも焦点をあてている。いわゆる社史として編纂されたものだ」
「へぇ。江ノ電は地元の風景の一部だし、ファンも多いから欲しがる人もいるような気がするけどな」
「この本は非売品とはいうものの、個人利用が目的であれば江ノ島電鉄から実費で購入することができる。そこにあるのは2019年6月に購入したものだ」
「最近じゃん！ でも、いつも目にしているのに歴史についてはよく知らないものって、ちょっと立ち止まって知識を仕入れると楽しいよね」
「意外な一面や想像もしていなかった発見があるからな。1974年から1985年にかけて藤沢駅のすぐ脇に江ノ電百貨店が12年間だけ存在したことなど覚えておらんだろ？ 小田急百貨店藤沢店の前身だ」
「そういえばそんな気も…」
「知っていても忘れていることも多いからな。だからこそ、ときどき地元の小さな歴史を楽しむのだ」
「なるほどね」
ユート
