森村誠一はオレの中で1981年11月の『悪魔の飽食』で死んだ。
高校1年の頃、テレビでやたらと角川映画『人間の証明』のCMスポットが流れていた。しつこいほどの「母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうね？」というセリフ。
映画の方はいまだに観たことはないけれど、見たこともない映画のこのセリフだけは今でもモノマネできるほどだ。
でもって映画は観てないけど、角川映画だけあって書店では原作者の”森村誠一フェア”が大がかりに催されていた。
オレはそれまで森村誠一を知らなかったけれど、なんとなく中・短編を何冊か買ってみて、それなりに面白かったんだよね。
1981年になって、森村誠一がドキュメントとして旧日本軍第731部隊を残酷な細菌部隊として書いた『悪魔の飽食』が出版されてベストセラーになった。
この本を買ったオレはまだ世間のなんたるかもよくわかっていなかったし、あの森村誠一が書いたからということだけですっかり内容を信じてしまった。
『悪魔の飽食』は日本共産党機関紙『赤旗』に連載されていたものだ。現在なら共産党がどんな組織かわかっているけれど、その頃は何も知らなかったからね。
で、その後、それなりに第731部隊を調べて森村誠一が吹聴していたようなものではないことを確信した。騙されたと思ったね。
人気作家がその人気を利用して、日本を貶めるためのデタラメを出版する。そんな恥知らずな人間がいるなんて当時は思いもしなかった。
オレにとって森村誠一は、安易に情報を信じてはいけないということを強烈に学んだ黒歴史であり、世間の評価ではなく自分で評価軸を持たなければならないという戒めになっている。
静 炉巌（2022/3/5）
