若松のクルマに乗せてもらって移動中のこと。話題は彼が前日に司会を務めた結婚式の話になった。車中にはオレと若松、そして若松の女友達のなおちゃんが乗っている。
結婚式の話題は、やがて”引き出物として喜ばれるものは何か？”ということに移っていった。
な：「やっぱりコップとかスプーンみたいな小物が嬉しいよ。新婚の二人が一生懸命に選んだようなの」
静：「そんなのいらないよ」
な：「なんで？ じゃあ、何がいいのよ？」
若：「…ハムだな！」
静：「うん！ ハムは嬉しいね！」
な：「イヤだよ！ ハムなんかいらない。そんなのバカにされるよ！」
若：「そんなことないよ！」
静：「そうそう、ハムはロマンがあるからね。オレ達が言ってるのは”薄切りの５枚パック”みたいなのじゃなくて、網にくるまってる高級なハムだからね」
若：「そうそう！ ”ハムの詰め合わせセット”はみんな喜ぶよ。」
な：「いまどき誰も喜ばないって！」
静：「そんなことないよ！ ちょっと想像してみてよ。いい？ 箱を開けてさ、透明のモヤシみたいなクッション材をどかすと、その下からハムが恥ずかしそうにチョロっとみえる…。それを大事に両手で抱えてそっと冷蔵庫の中に移すわけよ。若松んちの冷蔵庫はダメだよ、クサイから。
でね、会社にいくときは、ちょろっと冷蔵庫のドアを開けて中をのぞいてさ、『ちゃんといるいる』って確認してから家を出るわけよ。そして帰りは駅に着いたら全速力で走って帰ってさ、すぐに冷蔵庫を開けて『いたー！』とかって確認する…それが幸せってもんだよ。ハムをあげるっていうのは、そういう”幸せ”を贈るっていうことなんだよね…どうですかね、若松さん？」
若：「そのとおり！！ やっぱりね、結婚式に来てくれる人ってのは３万円ぐらい包むんだから、『来てよかったなー』って思うようなものをあげたいね。その”よかったなー”っていうのがハムなんだよ」
静：「うんうん。」
な：「イヤだよ！ コップとか小物の方が嬉しいよ」
若：「あんなの百円ショップで買ってるんだよ。やだよー、百円のもんなんて！」
静：「そうそう！ 百円のものをもらっても全然嬉しくない。だったら『10円あげるから焼きそばパン買ってきて』って言いたいね！」
な：「そりゃパシリだよ！」
静：「だいたいさ、昔はスタローンだって、CMでハムを薦めてたじゃん」
若：「そうだよ、ロッキーが言うんだから間違いないよ！」
静：「うん、ロッキーは信用できるもんね。ナボナだってさ、CMで王さんが『ナボナはお菓子のホームラン王です』っていうから、『あんたがそう言うなら信用しよう』と思ったけど、あれが長島さんだったら『こいつはテキトーだからなー、どうせマズイよ』って思ったはずだからね」
な：「でもハムはイヤなの！ あっ、だったら神戸牛にすればいいじゃん！」
静：「それはダメ！ だってオレたちの想像が及ばない範囲だもん」
若：「そうそう！」
静：「例えばさ、神戸牛を絵に描きなさいって言われたとして描ける？ 描けないでしょ？」
若：「そんなのもらったら、貧乏なハセちゃんなんか、ゾウキンだと思って机を拭いちゃうよ」
静：「そうだよ。結局ね、神戸牛なんてのは都市伝説なんだよ。話だけで誰もみた人はいないの。なおちゃんも、そんなのを信じちゃだめだよ、大人なんだから」
な：「なんでそんなにハムにこだわるの？」
静：「こだわってるんじゃなくて、オレたちの世代ではふつーの感覚なんだよ。ほら、結納とかってさ、花嫁さんの側に身代金みたいなのを払うじゃん。あれなんかも、ハムの詰め合わせを持っていって『娘さんと交換してください』っていえば大喜びでＯＫが出るんじゃないの？ 結納なんて指輪とハムでいいんだよ。どうせならハムをくり抜いて指輪をつくってもいいね」
若：「やっぱり誰もが喜ぶのはハムでしょう！」
静：「メロンにも弱いよ」
若：「うーん、確かにメロンもヤバイなー」
静：「ウリみたいのじゃなくて、ちゃんと編み目がついてるやつね！」
な：「生ハムは？」
静：「ダメ！ ロマンがないもん。剥き出しになってればいいってもんじゃないのよ。そのあたりはね、ぜひ会長のご意見をうかがいたい。エロビデオ愛好家として正直なところどうよ？」
若：「うーん、やっぱりモロに見えた方が…」
静：「おまえのエロビデオは暗黒の世界にいってるからなぁ」
若：「そんなことないって！」
静：「あっ、そうだ！ ”ハムビデオ”っていうのはどうかな？ ハムの詰め合わせセットにさ、そのハムのプロフィールとかサイパンで撮影したハムのプロモーションビデオ…網のとこをちょっとめくったりするやつを一緒にいれておくんだよ。ハムを切る前にそのビデオを鑑賞して、食卓の雰囲気をもりあげる！」
若：「いいねぇー！！」
静：「そんなのもらったら感動しちゃうよなー！」
若：「うん！ そんなのもらったことないもん！！」
な：「ねぇ、静 炉巌さんと会長さー。」
静：「んっ？」
若：「なに？」
な：「ハム好き同志で、あんた達、結婚しなよ」
by 静 炉巌（2002/07/29）
