男っぷりのイイ美女~K嬢の物語

湘から7_1

1998年に書いたモノで、K嬢という当時の知り合いの実話なんだけど、今となってはこの人が誰だったかがさっぱり思い出せない。この人、誰だっけ?

濃いつきあいがあったわけじゃないんだけど、ここまで綺麗に忘れていると気になってしょうがない。

美人だからお近づきになりたかったんだけど、本人からエピソードを聞いてドン引きした記憶がぼんやりとあるんだけどな。

K嬢は、なかなか可愛いらしい顔立ちである。はっきり言って美人だ。

だが、彼女は顔に似合わずに豪胆な性格な人なのである。

例えば、彼女がガムを食べているときに、嫌いな男が「ガムちょうだいー」と言ってきた。すると彼女は自分が噛んでいたガムを、手のひらにペッと落として差し出した。

例えば、彼女はドライブ中にUターンするため、ちょっと他人の家の駐車場に入りこんだ。駐車場にはよく水道があるが、バックで突入した車は、その水道を思いっきりへし折ってしまい、水が空に向かって勢いよく噴出した。もちろん、彼女はいちもくさんに逃走した。

例えば、彼女は弟を乗せて峠を運転中に居眠りをしてしまった。はっと気がつくと、車はガケっぷちの坂に乗り上げており、あまりの傾斜角に耐えきれなくなった車は、ごろんごろんと横に3回転して大破。しかし、彼女と弟は奇跡的に無事だった。

さて、そんな彼女の今から3~4年前の話である。

彼女は、友人の結婚式の2次会に招待された。めかし込んで家をでたものの、当日はあいにくの雨だった。

雨に濡れた横断歩道は滑りやすい。急ぎ足で横断歩道を渡っていた彼女は、つるりと足を滑らせると思いっきりすっころんでしまった。

だが、それだけならばまだよい。すっころんだ彼女は、そのまま勢いよくスライディングしてしまい、どういうはずみか横断歩道の手前に停まっていたタクシーの下に正面からすっぽりと入ってしまったのだ。

タクシーの運ちゃんも動揺したのだろうか? 彼女の腕を掴んで車の下からひっぱり出してあげればいいものを、そのままタクシーを前進させてしまった。

つまりタクシーの正面から入り込んでしまった彼女は、タクシーの後ろからでてきたわけである。

服は泥だらけになったものの、幸いにして彼女は、かすり傷だけですんだ。このときばかりは、自分のAカップに感謝したという。もしもDカップだったら大変な惨事になっていただろう。

さて、普通ならドレスが泥だらけになってしまったし、招待されているのも2次会なので、この状況であればそのまま家に引き返すのが当然だ…だが彼女はK嬢だった。2次会のカラオケが歌いたくてしょうがなかった。

彼女はドロドロのドレスで、2次会の会場に向かった。受付の担当者は、彼女の姿をみて唖然としたという。

受付担当者の動揺など少しも気にせず、彼女は入り口で会費を払うと会場の扉に近づいた。

その時だ。会場の中から勢いよく誰かが飛び出してきた。そして彼が、思いきり開いたドアは、彼女の顔を直撃したのである。

「うぐっ!」・・・顔を押さえた彼女から、激しく鼻血が吹き出した。それはまるで、かつて彼女がヘシ折った他人の駐車場の水道のようだったという。

泥だらけのドレス、吹き出す鼻血…常人なら、すごすごと引き返す場面であろう。だが彼女はK嬢だった。

「鼻が痛いぃー!」とうめきながらも、彼女はカラオケタイムが終わるまで帰ろうとはしなかった。

翌日のことである。一夜が明けても、なお鼻の痛みがとれない彼女は医者に行くことにした。

もちろん勢いで行動するアバウトな彼女に”病院を選ぶ”、などという概念はない。とりあえず目についた病院に飛び込んだ。

診察の結果、彼女の鼻は折れていることが判明した。鼻は軟骨だから、折れると言うよりも曲がるといった方が適切かもしれない。

「手術するのかな?」と彼女が思っていると、医者はいきなりスプーンの柄を彼女の鼻に突っ込み、ガンガンと手荒く叩きはじめた。

うぎゃー!」…さすがの彼女も叫び声をあげたという。

治療を終えた彼女は、「もう、どんな臭いものでも大丈夫だよ」と友人達に自慢した。

彼女の鼻は、少し曲がっていたという。

by 静 炉巌(1998/5/11)

home1