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[登場人物] ■子分１号 ■子分２号 |
私の勤めるオフィスは、とある高層ビルにある。私は社内に自席のほかに、仕事柄、別の部屋にも席をもってて、たいていはそちらの部屋で二人の女性子分（子分１号，子分２号）と共に仕事をしている。彼女達は、よく仕事をやってくれる。そこは認めよう。助かる。
さて、子分２号が夏休みなので、私はこのところ子分１号と仕事を進めているのである。そんな昼休みのこと。
子１：「静 炉巌さん、この前、会社の地下にマックができるって威張ってたでしょ？ 確実な情報を押さえたって。」
静：「あぁ、あれね。楽しみでしょ。」
子１：「そんな話、誰も知らないよ。どこから知ったんですか？」
静：「あれはね。地下の郵便局で順番を待ってるときに、隣の女性二人組が話してたのが聞こえたの。その子達はバスの中でオジサン達が話してるのを聞いたって言ってたよ。そのおじさんが誰に聞いたのかまではわからないけど。」
子１：「どこが確実なんですか！！ そんな話はないって笑われましたよ！ それからこの前、お願いした社内メール、全員に出してくれました？ ”共有パソコンの使い方”のルールをまとめたやつ。」
静：「あっ！ わす…」
子１：「忘れてたんですか！！」
静：「だって次々に仕事はいってくるんだもん。でも、忘れてたりしないよ、本当に！ 正確に言うと…潜在意識で覚えてたの。」
子１：「ふーん、じゃ催眠術とかで思い出すわけですか？」
静：「それってトラウマの治療じゃん」
子１：「だいたいですね！ …あれっ？」
静：「どうしたの？ んっ？ …なんか音…聞こえるよね？」
なぜか部屋に誰かの話し声が一瞬、聞こえたのである。我々は顔を見合わせた。
静：「話し声みたいだったけど、どっかの携帯電話かなぁ？」
子１：「まだ聞こえてますよ。ぴっ、ぴって鳴る音も」
静：「どっから聞こえてると思う？」
子１：「…サーバ」
静：「やっぱし…そうだよね。…今，サーバから話し声がしたよね。でも、コンピュータって勝手に喋るの？」
子１：「静 炉巌さん、管理者でしょ？ そういう設定してるんですか？」
静：「してないよー！ …進化かな？」
子分１号が、サーバを設置してあるラックの下を覗き込んでいる。そこにまた話し声が聞こえた…。
子１：「痛っ！！」（驚いて頭をぶつけた）
静：「大丈夫？ ねぇ？」
確かにサーバ（コンピュータ）の方から声が聞こえるのである。我々はなんとなく後ずさりして、サーバを遠巻きに眺めていた。でも、確かに何かの音が聞こえるのだ。
その時、突然、大きな声が部屋に響いた。
「防災訓練のお知らせです！！！」
それは、サーバの真上の天井に埋め込まれたスピーカーからの音であった。どうやらビルの管理者が『防災訓練』の通知をする際にマイクをオンするのが早すぎたらしい。
子１：「天井のあれってスピーカーだったんですね。全然、気づかなかった。」
静：「あー、よかった。このままコンピュータが勝手に進化し続けて歩き始めたら、どうしようかと思ったもん。」
子１：「静 炉巌さんは管理者でしょ！」
静：「そうだけどさ。勝手に進化されちゃったらどうしようもないじゃん。子分１号だってさ、子供ができたとしてさ、その子はもちろん人に言えないヘンな癖があるんだけど、そういうのって止められないでしょ？」
子１：「ヘンな癖ってなんですか？」
静：「なんだろうね？ …やっぱし…匂いを嗅ぐとか？」
子１：「なんの？」
静：「…自分のお尻とか？」
子１：「そういう会話ってセクハラ！」
静：「なんでよ？ だって自分のだよ。自分のお尻！ しかも、それをやってるのは子分１号の将来の子供なんだよ。」
子１：「そんな子供はいらない。」
静：「見捨てちゃだめだよ。じゃ、こうしようよ。その癖は５歳ぐらいで治るの。」
子１：「”３つ子の魂百まで”でしょ。」
静：「じゃ、２歳で治ることにしようよ。そんでまた新しい癖ができるのね。」
子１：「…」
静：「今度は、会話が途切れると『ぽーっ！！』って甲高く叫ぶの。これは１０歳まで。」
子１：「さっき人に言えない癖って言ったじゃないですか。それじゃ周りにバレバレですよ！」
静：「１１歳からまた人に言えない癖になるんだよ。男のくせにセルフヌードを撮るのに夢中とか…。」
子１：「それって癖じゃなくて趣味じゃん！！」
静：「そう思うでしょ？ でも、癖っていうのは無意識にすることだからさ、無意識にそういうことをするわけよ。」
子１：「アブナ過ぎるよー！！ もういいです！ そのうち静 炉巌さんみたいな癖になるんでしょ！？」
静：「何よ？ オレの癖って？」
子１：「日本ソバ食べるとアレルギーになるじゃないですか！」
静炉：「それは”体質”だから！！」
子分１号にかかると”体質”までも癖になってしまうのか？ 会話を終えた私は、昼休みが終わる前にこっそりとトイレに向かうのであった。「腸が弱いのも癖だ！！」と言われないうちに…。
by 静 炉巌(00/9/11)
