黄昏の職場日記:車の自慢だよの巻

syokuba1

[登場人物]

子分1号
中途入社だった私と入社年度がさほど変わらないからと、タメ口どころかときどき上から目線になる女性部下。

子分2号
妙な感性と仕事ぶりは評価できるが、かなりお調子者。子分1号の後輩となる女性部下。

roadster1小今朝の私は機嫌がいい。何しろ車を購入してきたのである。

オレンジ色のマツダロードスター。カラーリングもスタイルもいい二人乗りのオープンカーだ。

静:「おれさ、昨日ロードスターを注文してきたよ」

子2:「なにそれ?」

静:「なにって、オープンカーだよ。オレンジ色のスポーツカー! カッコイイだろー!」

子2:「うわっははーーー!!

静:「…なんで笑うの?」

子2:「ねぇ、若い娘とつきあいはじめた?

静:「…えっ、ううん」

子2:「じゃ、誰をターゲットにしてるのよ。どうせ、その娘が『スポーツカーのりたーい』とか言ったんでしょ。…でも、それだと奥田さんじゃないなぁ、もっと若いね。奥田さんは、あきらめたの?」

静:「なんだよ、人を女ったらしみたいにさ。奥田さんは、みんなで食事しただけだろ」

子2:「それはわかってるけどさぁ。でも、今までの経験からすると、絶対になんかあるのは間違いないのよ。狙ってる娘がいるか、何かに影響されたかだよ。どうなの?」

静:「…」

子2:「『まーた、ちゃっぴちゃん(子分2号)、図星だなぁ』とか思ってるでしょ? だいたい、今まで1年以上も車なくてだらだらしてたくせに、いきなり買うんだもん」

静:「…」

子2:「それに『オープンカーなんて日射病になるからダサイ』って、この前言ってたじゃん。怪しいぃーー!! 誰なのよ? しかし、また派手な…いっひひひー…息が苦しいぃ。みえみえなんだもんなー」

静:「なんだよ、そんなことないって! 夏だからね、オレは風を感じて走りたいだけだよ。赤いアロハとか着て、葉巻くわえて。あとウクレレとか積んでさ」

子2:「わっははー! それ怪しすぎるって! 似合いそうだから余計怪しいよ。あっ、…ツバとんだ。でもさ、オープンカーって屋根ないんでしょ。雨降ったらどうするのよ?

静:「そんなの傘させばいいじゃん!

子2:「えっ! 幌とかないの?」

静:「あっ、そうだった。幌だよ、幌!」

子2:「荷物積めなくて不便じゃん」

静:「もうロマンがないなぁ。いいか、眠れない夜にね。ふとベッドから起き出してさ、伊豆の端あたりまで車を走らせるわけよ。そこでシートを倒してね、天の川を眺めるの。頭上に広がる満天の星空…ろまんちっく」

子2:「あぁいう車って、シート倒れないんじゃないの?

静:「あっ、そうか。じゃあさ、ボンネットの上に座ってね、フロントガラスを背もたれにしてさ、頭上に広がる満天の星空を眺めるんだよ…ろまんちっく」

子2:「お尻が熱いじゃん!

静:「あっ、そうだった。…っていうか、もうなんだよ。いちいちうるさいなぁ! 白鳥はね、優雅に泳いでても水面下では必死に足を動かしてんだよ。ロマンのためなら尻ぐらい焦げだっていいんだよ!」

子2:「それじゃ、拷問だよー!」

静:「もうー! じゃあさ、ボンネットに座ったときにね。横に置くんだよ。とびっきりのステーキ肉! これを時計の代わりにする。そんで肉がミディアムに焼けたら…いや、ミディアムレアぐらいに焼けてきたら、尻にも危険が迫ってるってことだからボンネットから降りればいいじゃん。これならお尻だって安全だろ。どう?」

子2:「どうって…。肉と星空眺めて楽しいの?

静:「…」

ほくそ笑む子分2号。その表情は、最近さらにふてぶてしくなったように思えるのであった。

by 静 炉巌(99/6/2)

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