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[登場人物] ■子分１号 ■子分4号 |
前回からしばらくぶりの職場日記である。この間に子分２号は第二子誕生のため退職して、代わりに現在は子分４号が復帰している。
なんか以前よりも短気になってない？と思いながらも、よく働いてくれる。さて、ゴールデン・ウィークも終わって、まだ休み気分が抜けない昼休みのことである。
静 ：「なんかさー、ずっと悪循環が続いてるんだよねー。」
子4：「なんなんですか、悪循環って？」
静 ：「悪循環ってのはさ。例えばポテトチップを食べると塩っぱいでしょ？ で、しょうがないからキャラメール・コーンを食べてバランスをとろうとするわけじゃん。でも今度は甘くなっちゃうからまたポテチを食べて…を繰り返してるうちに気持ち悪くなっちゃうようなことだよ」
子4：「私はキャラメルコーンは食べませんから。」
静 ：「いや、これは”例え話”だからさ、自分にあてはまらなくてもいいんだよ。まぁ、どうせならもっと大きなスケールで例えるとすればさ。うーん、宇宙飛行士！！ …この例え話はちょっと長くなるけどいい？」
子4：「イヤです!」
静 ：「じゃ、宇宙飛行士になるまでの苦労談のとこは省略するから。いきなりロケットで宇宙に行ったと思ってよ。ロケットの窓から見える荘厳な宇宙。沈黙の空間に星がキラめいてて、地球なんて豆粒ぐらいにしか見えない。そんな地球を眺めながら故郷に残してきた恋人を思うわけさ。」
子4：「はぁ」
静 ：「で、そのロケットの中ではね、食べ物といえば当然、宇宙食。で、”宇宙食のポテトチップ”を食べるわけ。そうするとしょっぱいから、今度は”宇宙食のキャラメルコーン”を食べるわけじゃん。でもそうすると甘くなっちゃってまた”宇宙ポテチ”を食べて・・・って繰り返してるうちに気持ち悪くなっちゃう…みたいな。ねっ？」
子4：「宇宙でお菓子ばかり食べません！ だいたい私は”悪循環”の意味じゃなくて、”何が”悪循環か聞いたんです。でも、もういいです！」
静 ：「まぁまぁ、いわゆるビンボーのことよ。お金って入ると使っちゃうじゃん。で、また給料日になると入ってきて使っちゃうっていう悪循環でしょ？ オレなんて今、１２０円しかサイフに入ってないもん。」
子4：「それは普通に”生活”です。使ってばかりいないで貯金したらどうですか？」
静 ：「やっぱそう？ でもさ、使う金額よりも稼げばいいってことでもあるでしょ？ 老後の心配とかしてないで”今”を考えないとなー。」
子4：「それは”株をやる”とかですか？」
静 ：「ちょっとー。そういうさぁ、”銀座にベコを飼う”みたいな安直な物語じゃなくて、もっと現実をみなさいよ。例えば、トレジャー・ハンター！！」
子4：「それが現実的なんですか？」
静 ：「もしかしてインディ・ジョーンズみたいな古代遺跡の発掘を想像してるでしょ？ オレに言わせればあぁいうのは”宝探し”じゃなくて”自分探し”だね。”宝の地図を信じて、今を生きてる素敵なオレ”みたいなさ。そんな甘ちゃんは自分の部屋でメガネでも探してればいいんだよ！ もっと現実的なこと！」
子4：「…」
静 ：「オレが考えてるトレジャーハンターとしての獲物は”銀座”だね。銀座に眠っている土地を見つけるんだよ！」
子4：「はぁ…」
静 ：「銀座って広いじゃん、東京だから。でね、建物がたくさんあるでしょ、東京だから。 だから役所に行って資料を調べまくるんだよ。そうするとこう土地がちょっとひし形みたいなところとか、路地の端っこのとことかに役所が登録し忘れちゃった小さな土地があると思うんだよね。そこを見つけて土地を占有しちゃう！！ そんで太鼓とかを叩いて立ち退き料をもらう…みたいなのはどうかな？」
子4：「そんな場所はありません！」
静 ：「そう？ じゃ、教育ビジネスはどうかな？ 通信教育なんだけど…」
子4：「”赤ペン先生”とかですか？」
静 ：「違うよ！今さ、”ゆとり教育”の弊害で子供がバカになってるっていうじゃん。そういう子供は漢字とか読めないと思うんだよね。そこがポイント！」
子4：「…。」
静 ：「つまりね、通信教育で”少林寺拳法”教室の募集広告を出してさ、でもよくみると実は”小林寺（こばやしでら）拳法”でしたっていう通販をするんだよ。これは”小林くんが考えた拳法”でね、”歩くときに右足が地面に着く前に左足を上げ、左足が地面に着く前に右足をあげると空中を歩ける”とかテキトーなことがチラシの裏紙に書いてあるんだよ。これで入会金１万円！」
子4：「もう少林寺拳法はブームにならないと思いますよ。」
静 ：「えぇホント？ じゃ、不況知らずな占い師はどうかな？」
子4：「静炉厳さん、占いできるんですか？」
静 ：「当たり前じゃん！ 改名とかさせればいいんでしょ？ オレは小学校のときあだ名をつけるのが得意だったからね、”油すまし”とか”二等兵”とかさ。」
子4：「あだ名じゃないですよ。」
静 ：「わかってるよ。”名前を変えるだけでお金持ちになれる”ってやつでしょ。本当にそうなれる方法があるんだよ。これは風水みたいないい加減なもんじゃないからね。」
子4：「風水っていい加減なんですか？」
静 ：「いい加減だよ。あれって、”床の間にピカチューを置くと金運があがる”とかっていうじゃん？ そんな家はビンボーくさいに決まってるでしょ！」
子4：「”ピカチューを床の間に置くなんて知らないですよ…」
静 ：「だって”ピカチュー”って黄色いじゃん。オレが言ってるのはもっと確実なの。とりあえず、子分４号の改名を考えてあげようか？」
子4：「イヤです！」
静 ：「まぁまぁ、うーんと、よし！ 子分４号の新しい名前が決まりました。名字は”イラク”、名前は”復興”！！ この名前を箱に書いて、街角に立ってるだけで、知らないうちにお金が箱に入ってるはず！！ どうよ？」
子4：「募金サギじゃん！」
静 ：「サギじゃないよ！ だって自分の名前を書いた箱を持ってるだけじゃん！ 自分ちの郵便受けに通行人が小銭を投げ込んでるようなもんだよ。」
子4：「静 炉巌さんは、絶対にバチがあたるね」
静 ：「そういう未開人みたいなこと言わないでよ。オレはそういうのは信じないから。でもオレも不思議体験とかあるから、科学では解決できないことがあるってのは認めてるけどね。」
子4：「どんな不思議体験があったんですか？」
静 ：「もう何年ぐらい前かな、携帯電話の話なんだけど…。あっ、携帯電話って知ってる？ 持ち歩ける小さな電話で…」
子4：「知ってますよ！！」
静 ：「会社に行くためにいつもと同じように家を出てね。オレはだいたい携帯電話を上着の内ポケットに入れてるんだけどさ。その日はたまたま鞄にいれてたんだよ。で、途中で電車が遅れたもんだから会社に電話しようとしたわけ。で、携帯電話を取り出したらさ、なぜか…」
子4：「どうだったんですか？」
静 ：「携帯電話じゃなくてテレビのリモコンを握ってたんだよ！」
子4：「……」
子分４号は、まるで自分自身が”不思議体験”をしたかのような表情を浮かべて、無言のまま午後の仕事にとりかかるのであった。
静炉厳(05/05/11)
