大滝詠一が1984年に発表した『EACH TIME』ほど、本人の手によって無残になっていったアルバムはない。
車のトランクに投げ入れてあった大瀧詠一の『EACH TIME 30th Anniversary Edition』を聴いてあらためてそう思った。
オレが『EACH TIME』の曲を初めて聴いたのは、アルバム発売直後の新宿京王デパートのストア内でのことだ。
天井スピーカーから「ガラス壜の中の船」が流れて、耳を奪われた。素直にいい曲だと思ったね。
で、そのまま立ち止まって次の曲「ペパーミント・ブルー」までを聴いた。
当時は茗荷谷に住んでいて、神保町にもよく行ってたんだけど、アルバムが発売されたときは三省堂の正面の5階から2階までバカでかい『EACH TIME』の宣伝幕が降りていてビックリしたね。
オレはLP『EACH TIME』を買って何度も聞いたな。ひとつひとつが繊細な歌詞で物語を紡ぎだしていた。
オレが墓標にいれた『EACH TIME』は、オリジナルフォーマット以外のすべてのCDだ。
マニアじゃないから詳しくは知らないけれど、『EACH TIME』のCD版は発売されるたびに曲順が入れ替わったり、「レイクサイド ストーリー」の大エンディングがカットされていたり、アルバムにはそぐわない「フィヨルドの少女」「Bachelor Girl」が混ざっていて、オリジナルの完成度をぶち壊している。
そもそも曲順や曲数が毎回変更されるなら、そんなものはオリジナルアルバムではなく、単なる編集版に過ぎないし、聴き手を馬鹿にしていると思う。そうしたいのならAlternate版として出すべきだった。
今時点で聴くことができないオリジナルフォーマットの『Each Time』。それは制作者の愛を得ることができずに時の中に消えていった残念な存在である。
■『EACH TIME』オリジナルフォーマット
SIDE 1
魔法の瞳
夏のペーパーバック
木の葉のスケッチ
恋のナックルボール
銀色のジェット
SIDE 2
1969年のドラッグレース
ガラス壜の中の船
ペパーミント・ブルー
レイクサイド ストーリー（大エンディング・バージョン）
Shang（2022/3/13）
