会社からディズニーリゾートのチケットが配られたので、8歳の息子に声をかける。
「ねぇ、ディズニーランドのチケットをもらったんだけど、行く?」
「行かない」
即答である。4歳のときに息子をディズニーランドに連れていって、「全然、怖くないよ」と騙くらかしてスプラッシュマウンテンに乗せたら、最後に待ち受けている滝から落ちるかのような急激な下りコースでビビってしまい、それ以来、ディズニーランドを嫌がるようになってしまったのだ。
「そんなこと言わないで行こうよ。楽しいよ」
「イヤだ。行かない」
「じゃ、ディズニーシーは? アメリカの古い町並み。これは楽しいぞー!」
「行かない」
「おまえね、ふつーは子供というものは『ディズニーランドに行く?』って聞いたら、ワーイワーイって大喜びするんだよ」
「…」
「じゃ、お父さんがお手本を見せてあげるから、よーく見ておけよ。ちょっと、お父さんに聞いてみて!」
「えっ?」
「だからさ、お父さんに『ディズニーランド、行く?』って聞いてみてよ」
「うん。ディズニーランド、行く?」
「…えっ?」
「…」
「わかる? 今のが第一のポイント! 最初は、うまく聞き取れないわけ。突然にディズニーランドに行くって聞かれたけれど、まさか、そんなこと言うわけないよねって感じで聞き返すんだよ。まだ心の準備ができてないから。でね、聞き返すまでに、ほんの少しだけ時間がかかるわけ。これを”間(ま)”って言うんだけどね、そうだな、一回、息を吸うぐらいの時間かな。これが大事。もう1度、聞いてみて」
「ディズニーランド、行く?」
「…えっ?」
「…」
「ねっ? これぐらいの感じ。で、今度は聞かれた方が聞き返すの。なんか楽しい場所に連れてってくれるのかなぁって、ちょっと期待した感じで聞き返すんだよ。じゃ、続きね。いくよ」
「…」
「えっ? 今、なんていったの?! …ちょっとさ。もう1回、ディズニーランドに行く?って聞いてみて」
「もう! ディズニーランド、行く?」
「ディズニーランド!? やったーー! 行く行く! 絶対いく! わーい! ディズニー! ディズニー!」
「…」
「このときはバンザイして、こんな感じで手を上げたり下げたりしながら、ぴょんぴょん飛び跳ねるんだよ。お父さんは全身で喜びを表してるだろ。顔なんかもうニコニコだよ。わかるっ? これがディズニーランドに行く?って聞かれたときの子供の正しい喜び方だから」
「じゃあ、今度はお前の番ね」
「ねぇ、ディズニーランドのチケットもらったけど、行く?」
「行かない」
(2015/3/2)