『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂の店主の机の隅に、蛇の形のサキソフォン、魚の骨のようなアコーディオン、そして棺桶型のベースを演奏している3人のバンドマンのフィギュアが置かれている。
「桃源さん。これって『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』にちょこっと登場したバンドマンだよね？」
「また来た。これは売り物じゃないからな。ショウケースの方に興味をもってくれ」
「まぁまぁ。このバンドはジャックが骸骨のトナカイで空に飛び立つときにマイナー調のクリスマスソングを演奏してたよね。桃源さんってこの映画のファンなの？」
「何を言うか！ オレはそんな映画に興味はないぞ。これは机に置いてみただけだ」
「そうかなぁ。だってナイトメア・ビフォア・クリスマスの話になると妙に詳しいしさ」
「単に商売としての知識に決まってるだろ」
「骨董玩具に関係ないじゃん。で、これはなんなの？」
「JUN Planning が2000年頃に発売した”TOWN BAND”だ。このタウンバンドには、映画の音楽とジャックの歌を担当したダニー・エルフマンが混ざっているのを知ってるか？」
「えっ？ あっ！ もしかして棺桶ベースの中の顔？」
「そうだ。削除された場面だが、ティム・バートンのカメオ出演も撮影されていたぞ」
「公開版にはないんだ？」
「残念ながらな。終盤で3人の吸血鬼が凍った湖の上でアイスホッケーをしている場面がそうだ。オリジナルのアイデアでは、かぼちゃの代わりに、生首として登場するはずだった」
「ねぇ、桃源さんさ。やっぱり、ナイトメア・ビフォア・クリスマス好きだよね？」
「そんなことはないぞ！」
「あやしぃ～」
私は肩をすくめると葛楽堂を後にした。
