[登場人物] ■子分1号 ■子分2号 |
よく仕事で顔を合わせている業者のT田さんが、私の職場にやってきた。もちろん、子分1号、子分2号とも顔なじみである。
T田:「静 炉巌さん、今度、”恵比寿ガーデンプレイス”でワイン試飲会があるんだけど割引券いる?」
子2:「いらない、いらない!!」
静:「なんで、あなたが勝手に答えるわけ?」
子1:「お酒飲めないくせにムダじゃん。ちょっ~と飲んだだけで酔っぱらっちゃうんだから」
子2:「試飲会なんて行ったら、恵比寿の駅に降りたとたんに酔って倒れちゃうじゃん。しかも、ちゃっかり赤くなってたりしてね。わははー!!」
静:「そんなのわからないだろ! 知らないうちに、酒に強くなってるかもしれないし…」
子1:「ないない! あっ、T田さん、割引券は無駄になっちゃうので結構ですから」
子2:「余ってるようでしたら私達が使いますよ」
T田:「そ…そうですか…。じゃあ、2枚お渡ししときます。それじゃ」
T田さんは、彼女らに割引券を渡すと去って行った。…オレの分は?!
静:「まったく、あなたたちは…。ところでさ、ホチキスどこにあるか知らない? いつもここに置いておくんだけどなぁ。」
子2:「どうせまた静 炉巌さんがどっかに置き忘れたんでしょ! ないよー」
子1:「私達は使わないもん。ちゃんと探したんですか!?…ほら! この書類の下にあるじゃないですか!」
静:「あっ、ほんとだ。でも、オレじゃないよ。オレちゃんと戻してるもん!」
子1:「えぇー!?」
静:「ホントだってば! ホント!! よし、じゃ、これからはホチキスの置き場所をここに決めることにします。ここね。ここにこういう風に置くこと! これは決定だからね。わかった?」
子2:「私達は触らないもん」
静:「ぶつくさ言わない!! オレはさっき反省した。今までのオレは、あなた達に甘すぎました。これからは鉄の上司として、スパルタ教育でいくから! あなた達が、ちゃんとホチキスを戻さなかったら、女性でも手加減なしでビンタするよ! わかった?」
子2:「ぶはっ! 全部自分がなくすんじゃん! 何往復ビンタされると思ってんのよ? ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン…」(振りつき!)
子1:「ちゃっぴちゃん(子分2号のこと)が終わったら、次、私がビンタするからね」
静:「ちょ…ちょっと待ってよ!! なんでいきなりビンタされるわけ? ここにホチキスあるじゃん! なくした人がビンタされるの! オレは鉄の意思をもった鉄の上司だから覚悟するように!」
子1,2:「はいはい」
*
子1:「静 炉巌さん。何、ごそごそしてるんですか?」
静:「いや…べつに」
子1:「ホチキス、またなくしたんですか? さっき、使ってたじゃないですか?」
子2:「えぇ~!! もう~??! はい、静 炉巌さん、歯をくいしばって。左だけでもいいから頬だして!」
静:「ちょっと待ってよー。だってさっき途中で電話が…。」
子1:「でも、戻してないんですよね?」
子2:「ホチキスなくし男!」
静:「それ…語呂がめっちゃ悪くないですか…」
子1:「”ステイプラル・ルーザー”は?」
子2:「難しすぎて覚えられないよー。それより静 炉巌さん、早く頬だしなよ」
子1:「これは公開処刑だね」
静:「なんでホチキスで、処刑されなきゃいけないんだよ。だいたい最後に使ったのは誰かわかんないでしょ?」
子1,2:「静 炉巌さん」(ハモるな!)
静:「ちょっと待った!! だって、途中で次々と電話がかかって来たんだもん。しょうがないじゃん。仕事忙しいんだもん。上司は特別っていうのがあるじゃん!」
子2:「自分に甘いよ!! あまあまだよ、あまあま!!」
子1:「しぼったらジュースになるくらい甘いよ」
子2:「そこに蟻が寄ってくるんじゃん」
静:「それは糖尿病患者だろ!」
子1:「鉄の上司なんでしょ? ビンタされても痛くないじゃん。」
静:「いや、鉄の上司は心が鉄なだけだから…身体は弱いから…」
それにしても職場で上司にビンタを強要する子分達。こんなのありだろうか?
私は今こそ、”鉄の上司”として行動を起こすときなのではあるまいか? 私はとりあえず手近にあった梱包材ビニールのぷちぷちを、机の下でこっそりとふたつ潰すのであった。
by 静 炉巌(00/5/1)