『葛楽堂』と描かれた木製看板の奥に、古玩具だのワケのわからん品だのが所狭しと並んだショーケースが置かれている。そのショーケースを覗き込んで、いろんなモノたちを眺めながら、店主の桃源さんとときどき雑談を交わしている。
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葛楽堂店主の机の上に小さな銀色のトラックが置いてある。荷台にはドライバーがついている。
「桃源さんさ。その机の上のトラックが前から気になってるんだけど…」
「これは売り物じゃないぞ! ドライバーのセットだ」
「わかってるよ。でも、玩具みたいだね」
「ドライバーってのは、使おうと思ったときにすぐに見つからないのものだからな。だが最初からオブジェとして机の上にあれば探す手間が省けるし、失くすこともない。それがこの”TROIKA GERMANY WALTON TRUCK”だ。今でも販売されてるぞ」
「日本の会社?」
「いや。トロイカはメタル製ギフトウェアのメーカーとして1972年にイングランドで設立された。その後、ドイツに拠点を移したがな」
”TROIKA GERMANY WALTON TRUCK”は、荷台部分に取り外し可能なドライバービット6本と軸部分が収納されている。またボンネット部分には磁石が埋め込まれていて、クリップなどを止めておける。
後輪はプルバックになっていて、トラックを後ろにちょっとバックさせてから手を離すと、チョロQみたいに走り出す。実用性と遊び心のバランスがとてもいい文具品だ。
「これさ、荷台部分はトラックらしく持ち上がるようになってるんだね。子供だったらドライバーをミサイルに見立てて、ミサイル車として遊べるんじゃない?」
「おまえもそうやって遊ぶんじゃないのか」
「そんなことしないよ。ところで、なんでWALTON TRUCKっていうの? そういう種類があるわけ?」
「1971年から1981までCBSで放送されて欧米でヒットした”The Waltons(わが家は11人)”というファミリードラマがある。そのドラマに登場するトラックをモチーフにしているからだ。もっとも実物の雰囲気とは随分違うがな」
「へぇ。でも、こういうのがひとつあるといいね」
「だったら中古だが売ってやろうか?」
「いや、あの、そう思っただけなので」
私は首を横に振ると『葛楽堂』を後にした。