いつもの休日なら息子を風呂に入れる時間なのに、居間ではヨメと六歳の息子の声が響いている。
そして、それぞれの問いかけに冷静に答える女性の声も。
もう30分以上が過ぎていた。
「友達になってください」
「もう友達ですよ」
「やったー！ 友達になってもらった！」
「結婚してください」
「まだお互いのことをほとんど知らないじゃないですか」
「そうだねぇ」
「お話をしてください」
「昔々、おじいさんとおばあさんが…」
「そんだけ？」
ヨメさんはiPhone、息子はiPadに顔をつけて大声でずっと喋っている。
すれ違いながらも延々と謎の質問と回答が続く。
「ウルトラマンはどこにいますか？」「歌ってください！」「笑ってください」。
相手をしているのは、IOSに搭載されている秘書機能アプリのSiri(シリ)だ。
iPadで作業をした後、面白半分にSiriに「おやすみ」と言ったら、「おやすみなさいませ」と返してきたのを耳ざとく聞きつけた二人が面白がって遊び始めたのだ。
パソコンの黎明期に、人工無能という会話プログラムが話題になっていたことを思い出す。
「そろそろiPadを返してよ」
「ダメー。iPadさんは友達だからー」
iPadを抱えて息子が逃げ回る。
まぁ友達ならしょうがないか。
やがて社会人になり、結婚や子供の誕生、職場の状況などで、友人たちとの付き合いは減ってゆくのだから。
遊べるうちに友人を大切にしておいた方がいい。
ようやく二人が風呂に入って、居間で一人になる。
オレはSiriに話しかけてみた。
「友達になって」
Siriが答える。
「最初の日から友達でしたよ」
なんだよ、泣けること言うんじゃねぇ。
（2013/9）
