昼休みにランチを食べて席に戻ると、メンバーがなにやら盛り上がっている。
「なにを盛り上がってるの？」
「あっ、静 炉巌さん。佐藤さんが、結婚式場を決めたんですよ」
場所を聞くと、それは都内のちょっと洒落たホテルの式場だった。
「オレもその式場を使ったよ」
佐藤さんが驚いたように話しかける。
「ホントですか？ でも、式をあげるのって、なんかいちいちお金がかかりますよね。司会やケーキやテーブルの花とか、引き出物とか」
「そりゃまぁ。相手も商売だからね」
「引き出物の紙袋まで、お金がかかるなんて思いませんでした」
「オレのときは、紙袋はサービスだったけど」
「ホントですか？ 紙袋がひとつ400円もするんですよ」
「オレも最初はそう言われたよ。でも、あとからタダでいいって」
「えぇ！？ 私はサービスしてくださいって頼んだのに断られましたよ！ ズルイじゃないですか！！」
「オレに言われても…」
「どうして、タダだったんですか？」
「いや、オレは紙袋が400円もするならいらないって言ったんだよ。実家に”小田急”とか”そごう”の紙袋がいっぱいあるから、それに引き出物を入れるから大丈夫って」
「そんなヒトいませんよ！」
「そしたら式場の人が、『それは困ります。当ホテルの結婚式場からでてきたお客様が、”そごう”とかいろいろな紙袋をもってたら、ホテルの品位にかかわりますから』って言うんだよね」
「それはそうでしょ」
「オレは三越の紙袋も混ざってるから大丈夫だって言ったんだけどさ。でも、引きさがらないんだよね。『紙袋はサービスさせていただきますから、どうぞ使ってください』って」
「…」
「いろいろと値切ったあとだったし、悪いからいいよって言ったんだけど、『使っていただかないと逆に困ります。お願いですからサービスさせてください』って、すごく困った感じで頼まれてさ。で、しょうがないから、サービスしてもらうことにしたんだよね」
「静 炉巌さん、そんなことやってたんですか…」
「ワザとじゃないよ。あなたも『そごうの紙袋があるからいらない』って言えばいいんじゃない？」
「そんなこと言えませんよ！」
「じゃ、ウェディングドレスを新聞紙で作ったらどうかな？ ホテルの品位が下がるからって、衣装代をサービスしてくれたりして。招待客にもボロボロの服で来てもらってさ」
「そんな結婚式はイヤです」
