銭湯の夢の行方を考える

ちょっとそこの定年間際のオジサマ。定年を機会に若い頃に果たせなかった夢に、もう一度手を伸ばしてみるってのはどうですか?

夢を忘れちまった人間はただ呼吸をしてるだけ、それじゃ”生きてる”とは言えませんからね。

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たとえば、あなたね。銭湯の番台に座りたいっていう夢があったでしょ? いやいや、男なら誰だってそんな夢を描く時期があるものなんだからさ。

銭湯という昭和の風景も少なくなった今、その夢をかなえようと思ったら、まずは風呂屋からつくらなきゃいけない。

えっ? お金がない。でもね、銭湯を建てる金がないからって、そこで夢を諦めちまうんですかい? 番台のことはもう忘れちまうってわけ?

えっ? どうなんですか! 金がないから夢を捨てるなんてカッコ悪いぜ!

まずは小さなところからスタートしてみるんだよ! ラーメン屋をやりたいんなら、まずは屋台からだろ!!

まぁ、そこに座ってごらん。番台に憧れていた理由は何なんだい? 言ってごらん。

はい、それは”女性の裸が見放題”だからです!」だろ。うん、その純粋な気持ちを忘れちゃあいけないよ。

でっかい銭湯が建てられないなら、まず自分ちの風呂を女湯として解放してごらんなさいよ!

だいたいね、文化っていうのは揺り返しだからね。大量消費ブームの後にエコロジーブームが来たように、スーパー銭湯ブームの後にはプチ銭湯ブームがきたっておかしくないんだよ。

あんた名前はなんだっけ? あぁ、田中さんね。じゃね、まず家に帰ったら表札のとこに『女性専用プチ銭湯 田中湯』と貼る。

その横に案内板を立てて、『あなただけのセレブな空間を独り占め。パーソナル銭湯のひとときで心身ともに癒しワールド』とでっかく毛筆で書く。

女性ってのは独占欲が強いっていうからね、”空間を独り占め”って文句で刺激するわけですよ。

そのうち玄関のチャイムがピンポーンと鳴るね。そしたらドアのノゾキ穴から覗いて、子供やバーチャン,ブっさいくな娘とかだったら「回覧板は間に合ってまーす」とかいって知らんぷり。「お父さんとお母さんはお出かけです。ボクしかいません」って断り方もある。

で、いい感じの女性だったらドアを開けてね。甚平姿で玄関に正座してお出迎えです。

美しいお嬢様、本日は当銭湯のご利用ありがとうございます。これはサービスでございます

そんなことを言いながら駅前でもらったどっかの宣伝ウチワをサっと差し出すわけよ。ほら、女性は景品とか無料サービスに弱いっていうからね。

もちろん、無料サービスはウチワだけじゃありませんよ。三助のサービス付。三助…わかるよね。銭湯で「お背中をお流しします」のサービスをする男ですよ。

これぞ、番台に代わる個人銭湯の醍醐味ですから。夢はここにアリ! お客人を風呂場に案内して、立ちこめる湯煙の中、ササっとお客人の背中を流すわけさ。

「暑いのに大変ねぇ」とか言われたら、「いえ、仕事ですから」とキリリと返す。基本の表情はゴルゴフェイス。

「あぁ、この人は下心なんてない仕事熱心な人なんだわ」と印象づけるわけだよ。油断するとニヤけちゃうからこれがまた難しい。

で、背中を流し終わったら、今度はマクドナルド・スマイル!! さぁ、これからがドッキドキのピークです!

「ポテトはいかがですかぁ?」の感じで、気安く「前の方はいかがですかぁ?」とさらっと聞く。

ここでオーダーがとれなきゃ夢を語る資格なし!! 人生の煌めきはこの一瞬にあり!!

気合いと根性で鼻血を抑え、ドキドキと震える手は絶妙なマッサージ効果を生みだして、”流し”と”ほぐし”の大オーケストラ!

時には嵐のように激しく、時には子猫の肉球のようにやさしくスーパー三助として腕をふるう。

もちろん商売ですから、きっちりとお代はいただきます…500円!

「そんなんでやってけるの?」と思うだろうけど心配なし! だって残り湯を、その道のおマニア様に高く売りつければいいんだからさ!

あぁ、やっぱし夢に邁進するのっていいよねぇ。”スーパー三助サービス 田中湯”、本日開店です。

静 炉巌(2019/2/23)

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