藤沢にあった頃には、よく出かけていた老舗のインド料理屋”メノン”。
辻堂に移転してからはあまり足を運ぶこともなくなったけれど、たまにマトンカレーとタンドリーチキンが食べたくなる。この店のスタッフはインド人ばかりで美味しいのだ。
そんなわけで昼時に辻堂を通りがかったので、久しぶりに寄ってみることにした。
店のドアを開けてテーブルに着くと、開店直後だからか客は自分ひとりだけだ。
暇そうにしていたインド人ウェイターが注文を取りに来る。
「ちょっと、時間かかるよ」
「いいですよ」
注文してしばらくすると今度は水を注ぎにくる。客は相変らず私だけだ。ヒマそうだから、インド人ウェイターに話しかけてみる。
「ここのカレーおいしいですよね。ところでインドの言葉ってインド語なんですか?」
「インドはヒンドゥ語ね。でも、地方ごとに言葉違って18も違う言葉あるよ」
「えっ、18も!! じゃ、ヒンドゥ語で”こんにちわ”は何て言うんですか?」
「ナマステ。こんにちわ、こんばんわの意味ね」
「へぇー。それじゃ、”さよなら”は何て言うの?」
「…バイバイ」
「えっ?」
「バイバイ。あと、シーユーとか」
「それって英語では…?」
「…私わかんないよ」
この人は本当にインド人なのだろうか?! インド人っぽい顔の日本人じゃないのか?
ウェイター氏の黒い顔の首筋をこっそりと観察してみる。ドーランとか靴墨でインド人になりすましているのなら、首がこすれるYシャツ部分にそれらの跡があるはずだ。
そのインド人は、Yシャツの下にトレーナーを着込んでいた。
これはインドのファッションなのだろうか?
カレーを食べ終えても偽インド人疑惑は消えることなく、疑問符を抱いたまま私は店を後にした。