出先のトイレで小用を足していると、ひとつ空けた隣の小便器に知らないオヤジがやってきた。
そんなのは別にふつーのことだけど、ふと、オヤジの方をみてびっくりしたね。そのオヤジ、腕組みして用を足してるんだよ。つまりさ、チンポコ、フリー状態！
いや、ふつーはね。モノにちょっと手を添えておくもんじゃん。それなのに何故に腕組みして、前の壁を睨む必要があるわけ？
それとも、何かのアピールか？ 「お前よりも、オレのチンポコはデカイぞ」って威嚇してんのか？！
気持ち悪いんだよ、コノやろー！ そんなにアピールしたいなら、見せてみろ！ ほら、こっち向けろ！ チンポコみせろー！…と、心のなかで凶暴なホモみたいなセリフで毒づく。
しかし、なんなんだろね、この敗北感みたいな気持ち。単に小便器で隣の男が腕組みして用を足してるだけなのに、猛烈にイラついてしまう。
オレも腕組みで対抗してみようかな。でも、フリーになったチンポコでズボンが濡れたりしたらイヤだしな。そんなの大敗北だし。かといって、こんな気持ちを抱えているのも気持ちが悪い。くそ、コイツを後から蹴飛ばしてやりたい。
あっ、そうだ！ オレはオシッコが終わっても、出し続けているフリをして、腕組みすればいいんじゃん！ これならズボンにかかることもない。
オレは用を足し終わると、そのまま腕組みをした。どうだ、ビビれ！ …こっそりと横目でオヤジを確認する。オレは負けないぜ。
そこに誰かがやってきた。一瞬、びっくりした感じで立ち止まったのがわかる。そりゃ、小便器で二人が腕組みして用足してるんだもん。おまけに空いてる便器は、二人の間のひとつだ。
そんなのオレだってビビるよ。新入りは若者だ。彼はあきらかに緊張している様子である。新入りが用を足し始めてしばらくすると、さっきの腕組みオヤジが便器を去った。この、負け犬めが！ 負け犬はさっさと去れ！
しかし、オレはどのタイミングで去ればいいのか。なんで、用も足してないのに、小便器で腕組みをしていなければならないのか？ これはなんかヘンだ。
隣のヤツには、オレがヘンなオヤジだと思われているに違いない。この微妙な空気…オレは悪くない！！
オレは心のなかで叫んだ。おい、隣のヤツ！ オレの話を聞いてくれ！ なっ、ほら、オレのチンポコみてくれよ。ねっ、オシッコしてないでしょ。フリだけだよね？ ほれっ、チンポコよくみてよ！
そんなことを思いつつ、オレは、そいつが用を足し終わらないうちに逃げるようにトイレを後にした。
